ももく

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 海の仕事を生業にしていると、仕事仲間から不思議な話を聞くこともある。
 海坊主と目があっただの、霧の向こうに幽霊船が浮かんでただの、神さまが現れただの、それを見た本人が言うものだから、そりゃあ臨場感があるもんだ。
 おれたちはそれらを、聞いてるときはどんなにばかにしてたって、根っこの部分では信じてる。
 
 そうしていたら、おれたちも見たんだ。
 観音様の御神渡りだった。
 おれも仲間も観音様のお顔をこの目で見た。

 海で妖怪だか怪物だか神さまだかに蹂躙され、命からがら港に戻ってくる。そんなことがいつか自分の身に起きないとも限らないんだ。
 海では、人間の命などちっぽけなものだと、肝に銘じておかなくてはならない。



『海へ』

8/24/2024, 12:32:34 AM