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「君の奏でる音楽」

出産祝いにもらったものの中で、使うまでに一番時間がかかったのが、おもちゃのピアノだった。おもちゃだけど、ちゃんとした楽器メーカー製の黒塗りのグランドピアノ。子どもの指に合わせた鍵盤がかわいい。

何でも叩き壊す時期を過ぎ、おもちゃの木琴をそっとたたくことができるようになって与えてみた。指で押すんだよとやって見せるとおずおずと人差し指で白い鍵盤を押した。小さな指が一つの音を奏でた。ぱっと顔が明るくなって次々と指を動かす。

強くたたくように押すと大きな音になる。そっと押すと小さな音になる。手のひら全体でたたくとたくさんの音。

ごめんね、ママはピアノ弾けないから教えてあげられない。だからなのか、本物のピアノを習いたいと誰も言わなかった。でも、楽器を奏でるのは楽しいことだと子どもたちの笑顔が証明している。

三人の子どもたちが卒業し役割を終えたピアノは、部屋の片隅で植木鉢の台となった。今は小さなサボテンが三つ。

そういえば、リビングのウッドデッキに面した窓からよく野良猫が中を覗いていることがある。決まってピアノの向こう側にいて、じっとピアノを見つめている。あるとき窓が開いているときにピアノを弾いてみた、正確には音を出してみたら、猫は一瞬びくっとして後退りした。

これを外に置いたら猫はピアノに触れるだろうか?どんな音楽を奏でる?そう思ったらすぐに実行したくなって外に出した。楽しみ
だなあ。早く来ないかなあ。

8/12/2024, 2:10:56 PM