たちもり

Open App

【春爛漫】


 今年の桜は遅咲きだ。
 通学路、満開の桜並木をくぐりながら呟く。青い空が薄紅色の向こうにちらちらと覗き、太陽の光が花びらをまたたかせる。撫でるような風にまばたきをすると、こぼすような笑い声が耳に届いた。
 クスクス、クスクスと続くずいぶんと控えめな爆笑に、なに、と問いかける。やや尖った声はご愛嬌だ。ちくりと刺さるような声色など意に介さず、隣立つ瞳が自分のものとかちあった。
「遅くない、ここ数年が早かっただけ」
 木漏れ日を映した笑顔が柔らかく咲く。春の空に似つかわしい微笑みに、それもそうかと思い直した。再び見上げた空は、相変わらず桜色の天井が広がっている。
 なるほど、ちょうどいいのか。
 落ちた独り言に、隣から再び明るい声が響いた。

4/10/2024, 3:23:58 PM