途中まで(何気ないふり)
「死にたい」
特に仲良くもないクラスメイトがぽつりと零した一言。弱くて脆い言葉が雫となって、突然落ちてきた。
多分押し間違いだとかの偶然で、普段だったら聞こえないふりでもしたかもしれないくらいに面倒くさい。なのに、なぜだか、そこから輪が広がっていくように、私の中にあなたは居座ってしまった。
「……なに?」
時計がカチリ、と音を立てた。異様に自分の呼吸音が響き渡る。どちらも普段意識しないのに、それを身近に感じてしまうくらい教室内は異様な空気に包まれていた。雲が気を使ってくれたのか、ちょうど太陽を隠していく。
ここにいるのは私とクラスメイトだけで、ベランダから見える花の名前をなんとなく聞いた、それだけだ。
肝心のクラスメイトは眉をひそめたまま動かない。まるで人形、なんて思っていたら瞳がこちらを射抜いた。
「いや、動揺させたかっただけだけど……あんまり期待通りの反応じゃなかった」
じゃあ、と教科書を鞄に詰める彼女に今度はこちらの眉が寄った。買ったおもちゃが期待通りじゃなかった子供のようで、それを高校生がするのは理不尽極まりない。
真面目で大人しい子、というレッテルを勝手に貼っていたが変人疑惑により全てが覆えりそうになっている。
「いやいやいや……聞きたいこといっぱいあるわ、勝手に帰んないで」
「お、暇だから質疑応答は大歓迎、さあ生徒会長さん質問どうぞ」
生徒会長ということは覚えられているらしい、頭を回転させながらベランダへと繋がっている扉の鍵を閉めた。よほど乗り気になったのか机を移動させて二者面談のような形を作っている。掴みようが無さすぎて嫌になりそうだ。
普段なら面倒さくさいこともせず、はっきりさせようともしない自分なのに。
「えーっと……まず花京さん、自己紹介どうぞ」
「名前は覚えてるんだ、花京楓」
3/31/2023, 9:18:08 AM