忘れたくても忘れられない
俺には、3歳からの幼馴染がいた。
名前は香織。
奇跡的に、保育園から高校まで同じ学校だった。
高校卒業と同時に、俺は県内にある理系国立大学。
香織は、都内にある国立の医学部に進学したため、会う機会も少なくなった。
大学に入学して初めての冬が訪れた。
その日は実習で帰りが遅くなってしまった。
電車に揺られながら、俺はスマホをいじっていた。
すると、母からメールの通知が届いた。
それを開くと、思いもよらないものだった。
『香織ちゃんが、交通事故に遭って亡くなったって』
嘘だろ、と思った。
か、お、り、が、死、ん、だ…?
そのメールが信じられなくて、病院の名前を聞いて急いで向かった。
病院に着くと、父母と妹が廊下で立ち尽くしている姿を見つけた。
部屋の中から、おばさんの泣き声が聞こえてくるのがわかった。
「母さん、香織は?」
「…あそこよ。行ってきなさい」
母が指差した方向へと、足を進める。
その足は、今まで感じたことのないくらい重かった。
部屋に入ると、白い布を被った遺体があった。
「宏太くん。きてくれたのね……香織の顔、見てあげて」
おじさんが、布をめくってくれた。
そこには、長年見てきた幼馴染。もう開くことのないその目を見て、俺はもう悲しみを超えた感情が込み上げてきた。
泣きたいはずなのに、涙は出てくることはなかった。
葬式が終わってからの日々は、あっという間だった。
俺は月命日になると、必ず香織の墓を訪れることにした。
仏花を片手に、月に一度、香織に会いにいくことは習慣となっていた。
「香織。今日は雲ひとつない青空だぞ」
俺は今日も、香織に言葉をかけていく。
彼女の分も、俺は生きる。
そう心に誓った。
10/17/2022, 11:57:57 AM