秋埜

Open App

 窓硝子は無惨に割られていた。散乱する破片の片付けと、窓の修繕にかかる手間を思って溜息をつく。
 ガラスケースは床に転がされて、展示台の上にはもう何もなかった。窓の破れ目の向こう、暗色の空と海の間を、方舟は次第に遠ざかっていく。
 小さくなっていく船影を見るともなしに見送ってから、室内の惨状に目を戻す。ふと、気付く。
 何もないと思っていた展示台の上に、何かがあった。あまりに小さく、台と同じ色なので一見では見落としていた。
 それは硝子で作られた、小さな白い猫だった。
 神様へ。猫の影に隠れて、ただそれだけのメッセージが残されていた。鉛筆書きの薄い文字は、いずれ消えてしまうことだろう。

4/14/2023, 12:04:16 PM