かたいなか

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「夢……?」
『夢を見ていたい』。アレか。冬の毛布の中とか二度寝とかか。某所在住物書きは今日も今日とて、前日配信されたお題に20時間程度悩み続けた。
最近、自分の不得意が多いのだ。

「まぁ、『見てたい夢』にも、種類はあるわな」
物書きはポツリポツリ、ネタを並べた。
「将来の夢を夢のままにしてたいとか。
誰かに騙されてるけど、まだ騙され続けてたいとか。
それこそ、今見てる夢をそのまま見続けたいとか。
何か理想を追い続けていたいってのも、あるわな」
はぁ。 大きなため息を、ひとつ吐く。
で、書きやすいのはどれ……?

――――――

東京で初雪が降った日の夜、つまり土曜日、「自分は雪国在住だ」って名乗る垢の人が、呟きックスの東京雪降りました投稿に写真付きでマウントとってた。
これが本当の積雪、これが本当の吹雪、これが本当の真冬の景色。自分で撮影した画像をバラまいてたけど、すぐ出火して、鍵垢になって、魚拓撮られて、
最終的に、ものの1〜2時間で鎮火した。

丁度、雪国出身っていう職場の先輩のアパートに居たときの炎上だったから、ハナシのネタに先輩にマウント画像を見せたんだけど、
先輩は、数秒画像をじっと見て、小さく首を傾けて、
静かに、スマホを私に返してポツリ。
「まぁ、雪国と言っても、色々あるから」
私からの批評は控えるよ。先輩はそう付け足して、キッチンに戻った。明日の朝ごはんの仕込みだ。

「先輩、この画像よりスゴいの、見たことある?」
「……積雪量だけで、何々と言うのは難しい。私の故郷より雪が少なくても寒い地域など、たくさんある。そういう場所からの投稿かもしれない」
「『先輩にとって』、一番の吹雪な画像ってどれ?」
「撮れない。撮ったところで画面が白いだけだ」

「それ吹雪じゃなくてホワイトアウト」
「たしかに。ごもっとも」

トントントン。さくさくさく。
何かの野菜を切ってる音が、キッチンから聞こえる。
「明日はオートミールで鶏雑炊風の予定だが、お前、食欲は?もう少し軽い方が良いか?」
「多分だいじょーぶー」
長いこと一緒に仕事して、節約術としてシェアランチしたりシェアディナーしたりして、生活の時間をそこそこ重ねてきた私と先輩。
別に恋仲でもないし、先輩をそういう目で見たこともないけど、
まるで覚めない夢を見てるみたいな、それか長編の物語を読んでるみたいな、ともかく他人と他人の穏やかな関係が、長ーく続いてる。

「昼飯は食っていく予定か?」
「明日の路面状況による。最低気温0℃らしいし、なんか凍りそうだし」
「雪靴じゃないなら、滑るのが怖ければ食っていけ。昼飯とスイーツくらいは準備できる」
「スイーツ助かります」

私が今の、ブラックに限りなく近いグレーな職場を辞めたり、逆に先輩が辞めたりしたら、すぐ覚めちゃう夢だけど、
私としては金銭的にすごく助かってるし、なにより、ごはんを一緒に食べる人がいるのがちょっと嬉しい。
いつ覚めるか知らないけど、
可能ならもうちょっと、夢を見てたい気は、しないでもない、かもしれない。

「先輩フラペチーノとか飲まない?私買ってくるよ」
「凍結の可能性がある道路を歩いて?」
「あっ。あ……」
「低糖質アイスなら冷凍室だ。それにコーヒーでも混ぜて我慢しろ。アフォガードモドキ程度にはなる」
「あふぉがーど、もどき……?」

1/14/2024, 6:53:36 AM