hashiba

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手にしていたはずのスマホが膝の上へと滑り落ちる。自分の肩に寄りかかって居眠りとは、この人にしては珍しい。横目に様子を窺うも、ここからでは頭しか見えない。空いている方の手でそっと撫でてみる。無防備なことだ。眠るこの人に、あるいはこの人の持つ何かに悪事を働くのもきっと容易いだろう。そしてそんな不埒な考えを真っ先に思いついてしまう自分のことを、果たしてこの人は好きになって本当に良かったのか。心の奥底で澱んだものが不意に浮上する。あなたが思うほどできた人間ではないから、せめて今は距離を取らせてほしい。そう思って腰を浮かせると、いきなり強く腕を掴まれ引き寄せられた。どこへ行くのか、と至近距離で問う目が不敵に細まる。まさか起きていたとは、というかこれはマズイのでは。机上の空論はあっけなく覆された。


(題:後悔)

5/16/2024, 8:15:08 AM