はた織

Open App

 夜のとばりと共に舞い降りた、暗く凍てつく空気を呼吸よりも先に肌で感じ取る。凍える潮風に皮膚が湿って、だんだんと体温を奪われていったその時に、やはり私の鼻先に煙草の煙が燻る。湿り気で身体が冷えているから、皮膚にも紫煙がまとわりついて、より匂ってくる。
 塩竈に居た祖父と伯父どちらか忘れたか、帰省から戻る私たちを夜にも関わらず、煙草を咥えたまま見送ってくれた。その時の残り香が私の記憶に染み付いたかもしれないが、本当に2人が寒空の中、家族の帰る姿を見届けたのか、記憶が霞んではっきりとは覚えていない。
 どうであれ、星のまたたきがひどく目に刺すほどに眩しい凍空の下にいると、潮騒に応える彼らの喫煙が私の鼻腔をくすぐってくる。幼い頃の走馬灯に灰吹かす白煙が薫ってきたら、冬のはじまりだ。
              (241129 冬のはじまり)

11/29/2024, 1:04:41 PM