赤い糸を見つけた。都会の雑踏の中では細い糸は目立たなかったが、私は一瞬でその糸に目を奪われ、気がつくと糸の続く方へと歩みを進めていた。
赤い糸の続く先は長かった。私は糸に導かれるようにして歩き続けたが、それにしてもちょっと長すぎやしないか、と思うくらいには長かった。
何度か心が折れそうになり、この度に自力で克服した。そんな経験が重なり、謎の無敵感に包まれながら歩みを進めていると、突然糸が途絶えた。赤い糸は、森の中の一本の木に結びつけられていた。
──え、何もないじゃん。
「その時は本気でそう思ったよね。でも、なんだかんだでそのままここで暮らすことになったんだ。ま、運命なんて、案外そんなものかもね。」
人生に絶望して都会を彷徨っていた時に偶然見つけた赤茶けた糸を辿って行った先の立派なツリーハウスの住人は、そう言って笑った。
(赤い糸)
7/1/2023, 3:18:10 AM