今年の春はどうかしている。
三月も今日で最後、明日にはもう四月。
にも関わらず今日は朝から寒かった。
ネットニュースの『一月末並の気温、凍えるような寒さ』という文言を見て俺は「秋だけでなく、ついに春も消えたか……」なんて考えながら、仕事着に着替える。
白のワイシャツに、黒のズボン、黒いベルト。
そこに今日は黒のスーツジャケットを追加した。
……これじゃあ外は寒いだろうな。
しかし俺の職場はビルの地下にある。
暖房のよく効く地下一階、ジャケットをすぐに脱がないと汗ばんでしまうくらいに温かいオフィスだ。
うん、やっぱりコートはやめておこう。
荷物を持って外に出ると、肌で寒さを感じるより早く、口から白い煙が漏れた。
どうしてこうなった。
日本はこれから凍ってしまうのか?
日本全土が南極みたいに白く凍る、なんてさすがにありえない。
ありえないはずなのに、そんな世界を想像してしまうほどの異常気象だった。
ハルはどこにいったんだ。
はやく、帰ってこいよ。
通勤のためにやってきた最寄り駅の改札前に、ふと、見覚えある姿に気が付いた。
俺よりも少し高い背丈、青と蛍光色が目立つアート的でカジュアルな格好。
この世でひとりしか持っていない、薄桃色の髪が、冷気の風になびいて煌めいた。
「ハル?」
声をかけると、相手は振り返った。
黒く丸い瞳が俺の姿を捉えて、見開いた。
「チアキ?」
「そう、そうだよ……チアキだよ」
いつも通りの通勤時間。
それなのに今日、俺はここで、二十年ほど前にいなくなった幼なじみと再会した。
懐かしさと、嬉しさと。
ずっと残っていた寂しさに突き動かされて、俺はハルの腕を掴む。
「おまえ、どこ行ってたんだよ……! ずっと、何年も、帰ってこないし!」
「ああ……そう、だよね。ごめん」
ハルは驚いた顔で俺を見ていた。
けれど、しばらくしてハルは柔らかな笑顔になり言った。
「仕事、行く途中なんじゃないの? 電車来ちゃうよ」
「いや、でも」
「僕このあたりに越してきたんだ。だからまた今度、ゆっくり話そう?」
そう言われて、俺は時間を見る。
いつ電車が来てもおかしくない時間だった。
「いなくなんないよ、ほんと」
ハルはそう言い、かなしげに微笑んだ。
「もう春は来ないんだから」
【 春風とともに 】
3/31/2025, 12:43:38 AM