『大好きな君に』
リビングのソファに座り、彼女は小さな両手でタプタプと携帯電話を操作している。
俺は、まだ見慣れない彼女の青銀の髪の毛にそっと触れた。
彼女の細い肩が跳ねだと思えば、銀色の長い睫毛を忙しなく上下させて俺を見上げる。
携帯電話から彼女の視線を奪うことに成功した俺の機嫌は、一気に上昇気流に乗った。
「どうしました?」
「どうしたって、……それはこっちのセリフ、なんだけど?」
「きれいだなって思ってただけなんで、気にしなくていいですよ」
形のいい頭部のラインを確かめるようにしながら、指通りのいい艶やかな彼女の髪を指に絡める。
彼女の髪の毛は肩にかかる程度だ。
自然と互いの距離が近くなる。
いまだに恋人としての距離感に慣れない彼女は、居心地悪そうに俺から目を逸らした。
「気にするなって言われても……」
「頭、触られるのイヤですか?」
「そういうわけじゃないけど」
「けど?」
「れーじくんの手がおっきいから、耳とか首とかに指が当たっててくすぐったいの」
「ああ……」
耳朶の軟骨部分に指をかけて皮膚の薄い部分をそっと撫でると、彼女の僅かな疼きは艶かしい声となって溢れた。
「ぁっ」
「……ここ、弱いですもんね?」
俺から距離を取るどころか、俯きながら俺に身を寄せてしまうところがいじらしい。
無防備に覗いた耳は真っ赤に染まっていた。
「声、出ちゃう、から……」
「うん。聞かせて?」
「やっ、恥ずかし……、ひぁっ!?」
かわいい。
必死に声を抑えようとする彼女と、彼女の反応を楽しむ俺の攻防戦はそう長くは続かなかった。
声は抑えていても、彼女の浅くなっていく息づかいや火照っていく皮膚や速くなる鼓動に、俺の理性が早々に限界を向かえる。
「ね、キス……させてくれませんか?」
「!?」
ギュウ、と服の皺が深く刻まれる。
彼女の顔は俺からは見えていないはずなのに、はくはくと口を開閉させながら言葉を探しているのが容易に想像がついた。
ただのキスのひとつで振り回されてくれる彼女が本当に愛おしい。
「許してくれるなら、お顔を上げてくれるだけでいいんですよ?」
「あ、まり、……からかわないで」
「失礼な。愛情表現です」
「全然、拒否させる気ないじゃん……」
「……」
ウソだろ?
もったいぶって思わせぶりな態度をしておいて、拒否するつもりでいたほうが驚きである。
「え? ダメなんですか?」
「だ、だからっ、ダメなんじゃなくて! 恥ずかしいのっ」
トストスと額を俺の胸に打ちつけながら彼女は吐き捨てた。
「キスのあとはもっと恥ずかしいことすることになるのに?」
「えっ?」
反射的に顔を上げてしまった彼女の唇の上にリップ音を立てる。
オフの日の彼女はかわいそうになるくらい隙だらけだ。
「す、する……の?」
「しますよ?」
さっきまであれだけ恥ずかしがってたクセに。
一度キスを許したせいなのか。
気の緩んだ彼女は顔を上げたまま、戸惑いに揺れた大きな瑠璃色の瞳に俺を映した。
あんな隙をついたようなキスをキスとしてカウントされても困る。
キスひとつで振り回されているのは俺のほうだ。
散々焦らされたせいで、キスだけで引き下がってあげられる気がしない。
キスを深く交わしていきながら、ゆっくりと彼女の背中をソファに押し倒した。
3/5/2026, 5:17:38 AM