小音葉

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可愛げがなくて、従順じゃなくて
望まれた姿になれなくて、ごめんなさいね本当に
だって仕方がないでしょう
手を差し伸べられれば弾きたくなる
甘く囁かれれば拳が飛ぶ
縋り付く無様のせいで服に皺がつくでしょう
それに何より、あなたの為に生きていないので
理想通りの人形にはなれないの
誰だってはじめから、あなたの為に生まれたりしないの

メソメソしないで、選ばれたいのなら
俯かないで、鬱陶しいから
誰かを塗り潰すその前に、まずあなた自身に描きなさい
冷たい人形を抱く腕で、自身の体を洗いなさい
電子に溺れるその瞳で、虚妄に毒された二つの耳で
何処からか借りてきただけの刃を飛ばす乾いた唇で
あなた自身を曝け出して、剥がして、壊してしまって
そして最後に滝のように溢れ出す
手でも足でも使えばいい
歪な像を結んで固めて、本当のあなたを見せてほしい
そうしたらきっと、愛してみたくなる
私ではなく、あなた自身がね
きっと、もう少し、愛しくなるでしょう

塗り替えたところで惨めな過去は変わらない
何度色を重ねても、底の汚濁は溶けたりしない
思い出す度に頭を抱えて、顔を歪めて呻くのでしょう
あの頃はそう、愛嬌がなくて、生意気で
この目で見える世界が全てだと思っていたのね
それで良いのかもしれないね、本当に
だって仕方がないでしょう
遡れないし消せないけれど、きっと必死に生きていた
あなたなりに、私なりに
誰だって自分の為に生きていたけれど
願いながら組み立てた、最強の自分にはなれなかった
手を伸ばした先に、はじめから並び立つ未来は無かった

せめて頬に残る一筋の名残が
夜を照らす灯火になればいい
別れた道の先でいつかまた、会えたなら

(涙の跡)

7/26/2025, 11:29:01 AM