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『朝日のぬくもり』

 突如世界中に現れたゾンビ……
 その侵略者は、数の多さで人間社会を崩壊させました。
 いまでこそ、ある程度平和な暮らしが出来るようになりましたが、いまだ大きな脅威です。

 ゾンビは、最初の内は取るに足らない存在と思われていました。
 ですが短期間の間に、爆発的にその数を増やし、人類にとって大きな脅威となり、ました。
 一体だけでは無力なゾンビも、数がいると非常に危険です。
 国は総力を挙げてゾンビの数を減らそうと試みていますが、あまり効果は上がっていないのが現状です。

 これを見ている皆さんも、ゾンビはただの害獣としか思っていることでしょう。
 『ゾンビは人間を襲うもの』。
 それは間違いではありません。

 ですがそれ以外の時は何をやっているのか、誰も知りません。
 我々はゾンビの生態を調査することにしました。
 ゾンビの生態を知ることで、効率的な駆除方法が見つかる可能性があるからです。

 皆さんも一緒に、ゾンビの謎を解き明かしていきましょう。

 ◆

 ここは、とあるゾンビだまり。
 暗くなって活動を辞めたゾンビたちが集まる場所です。
 集まる理由は不明ですが、ここにゾンビを惹きつける何かがあると言われています。

 我々は調査のために、このうちの一体を『ゾン太』と名付け、追跡することにしました。
 このゾン太を通して、ゾンビの生態に迫っていきます。

 ◆

 日が昇る早朝、ゾンビたちが動き始めました。
 ゾン太もまた、他のゾンビと同じように起き上がります。
 一日の始まりは『朝の温もりと共に』という事でしょうか?
 そんな雅な趣味があるとは思えませんが、ともかく調査開始です。

 しかし活動を始めたものの、ゾン太は他のゾンビたちから離れ、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。
 当てもなく彷徨い歩きます。
 ゾン太はまるで、特に予定の無い休暇を過ごす暇人――いえ、これ以上言うのはやめましょう。

 とにかく、うろついているのは、恐らく餌である人間を探しているからだと言われていますが、あまり積極的に探しているようには見えません
 これはまだ仮説なのですが、ゾンビは『自分たちの活動のために、人間を食べる必要な無いのでは?』と言われています。
 なんで食べる必要ないのに食べるのでしょうか?
 もしかして何も考えてない……?

 しかし何も考えてなさそうなゾンビも、最近では知能がある事が分かりました。
 ゾンビの「あー」とか「うー」という呻き声。
 これは鳥の鳴き声と同じように、コミュニケーションをしているのです
 まだ研究途中ですが、餌場の情報交換などをしているのではと言われています。

 あ、別のゾンビが近づいてきました。
 何かを話し合っているように見えます。
 情報交換をしているのでしょう……

 あ、動き出しましたね。
 今までとは違い、彷徨っている様子はありません。
 どこかにある目的地に向かって、迷いなく進んでいます。
 ゾン太だけではなく、二体とも同じ方向に向かっているので間違いないでしょう。
 我々は調査のため、もう一体を『ゾン子』と名付けます。
 ゾン太とゾン子、どこに行くのか……
 付いて行きましょう

 ◆

 しばらく歩いていると、ある建物に着きました。
 ここは……酒屋です。
 どうやら放棄された酒屋のようです。
 入り口には『営業中』と書かれた看板があります。
 慌てて避難して、そのままなのでしょう。

 しかし、なぜゾン太とゾン子はここに来たのでしょうか?
 彼らは迷いなく、酒屋に入っていきます。
 中を伺いたいところですが、危険なのでこれ以上は近づけません。
 なんとなく察しが付くのですが、我々はここで出てくるのを待つことにします。

 ◆

 ゾン太とゾン子が出てきました
 手に持っているのは――缶飲料でしょうか。
 銀色の缶で、私なんだか見覚えがあります。
 ちょっと双眼鏡で覗いてみましょう。
 書いてあるラベルは――

 『アサヒ スーパー ドライ』?

 なんということでしょう。
 ゾンビも酒を飲むのでしょうか?
 我々が驚いていると、ゾン太とゾン子は看板の角で、缶に穴を開け飲み始めました。
 ゾンビが酒を飲んでいます。
 朝っぱらから……

 先ほど抱いた感情は正しかったようです。
 ゾン太とゾン子、働きもせず朝から酒ばかりを飲んでいる、ダメ人間――いえダメゾンビです。
 しかも飲んでいい気分になったのか、ゾン太とゾン子はその場で寝てしまいました
 ダメゾンビのお手本のような存在です。
 ゾンビにもだめなやつはいるんですね……

 いえ、待ってください。
 周辺からぞろぞろゾンビが集まってきました。
 どうしたのでしょうか……
 悪い予感が――ああ、やっぱり酒屋に入っていきました。
 きっと酒を飲むつもりなのでしょう。
 ダメゾンビは意外と多いようです。

 ◆

 さきほど入って来たゾンビのグループが出てきました。
 すでに酒を飲んでいるようです。
 入り口で宴会を始めてしまいました。
 もはやただの酔っ払いです。

 あ、騒ぎに気づいたのか、ゾン太が起きました。
 起き上がって、周りを見て――また酒屋に入っていきます。
 まだ飲むつもりなのでしょうか?
 ただただダメなゾンビです。

 我々人類はこんな奴らに滅亡しかけたのでしょうか?
 私、涙を禁じえません。

 ……おや?
 さきほどのゾンビのグループが、なにやらもめ始めましたね。
 理由は分かりませんが、酔っ払いのゾンビですからね。
 特に理由なんて無いんでしょう。

 ゾンビが掴み合いの喧嘩をし始めました。
 始めは二体だけだった喧嘩は、最終的にグループ全員を巻き込む喧嘩に発展します。
 これは……グロイですね。
 ゾンビたちがお互いを共食い――共食いなんでしょうか?
 ともかく、噛みつきあってとんでもないことになっております

 と、そこへゾン太が出てきてきました。
 今回も銀色の缶を持っていますが……
 遠目からでも分かります。
 あれ、コンロ用のガス缶ですね。
 酔っぱらって間違えたのでしょう。

 そしてゾン太は、周りで喧嘩していることに気づかず、看板の角で穴を開けようとしてます。
 これ、オチ分かってしまいましたね。
 なかなか開かないのか、ゾン太は何度も缶を叩きつけ――

 あ、爆発しました。
 ものすごい音です。
 爆発でゾンビがバラバラになりましたね。
 ゾンビも、ガス爆発の前には無力のようです。

 えー、この番組を見ている皆さん、コレで分かっていただけたかと思います。
 ゾンビには、酒を飲ませれば自滅する。
 さっそく報告書を書きたいと思います。
 書いている間に、ゾンビが絶滅するかもしれませんが……

 最後に、視聴者の皆さんに一言。
 『酒は飲んでも飲まれるな』
 ではまた来週。

6/10/2024, 1:06:44 PM