「けいや!いこ!」
連れられて来たのは、レディースの洋服店。
「やめろ、変な世話しなくていい。ほっとけ」
「服が欲しいって言ったのはけいやでしょ」
「っだぁ!うっせぇ!」
俺は今まで、自分を隠して生きてきた。
自分を「男」ではなく「女」と思っている事を。
ずっと、ずっと隠してきたのに。
こいつとあって変わった。いや、変わってしまった。
「けいや、プリクラ撮ろ!」
「けいや〜ゲーセン行こうよ〜」
「けいや?大丈夫?」
全部、全部変わった。俺はこいつの前では
隠すのを辞めていった。
「けいやー?どうしたー?」
「いや、やっぱりいいや。ごめん付き合わせて」
店を出ようとした。
「あら、お客様?」
「ひっ!?」
「ああ〜、もしかして紗里さんの言ってたお友達?」
「えっ、なんで知ってっ!?」
「こちらへどーぞー」
「え、ちょちょちょ」
腕を引っ張られた。どこへ連れかれる!?
ヤバい組織でも捕まったか!?
「というか、なんでその事情を貴方が知ってるんですか!有り得ないです!」
「協力して欲しいって言われたんです。信じて下さい。本当に、本当に誰にも言ってないです。」
「……信じれない。信じたいのは山々ですが…」
何度そう言われて裏切られたか。この人は知らないだろう。
「では本題に」
「?」
「この中から好きな服を選んで下さい。無料で差し上げます」
「は?いやいや!悪いっすよ!」
多種多様な洋服。この世の色を全て集めたのではないかという程種類がある。
「…本当に、いいんですか?」
「はい。もちろんです」
俺は…私は、何十分も選んだ。でも店員さんは飽きず、ずっと傍で目を輝かせていた。
「決まり、ました」
自分の姿とは思えない。
ピンクのパーカーに、薄ベージュのワイドパンツ。
言うのもなんだが、すごく似合ってると思う。
「とっても素敵です!お客様」
「…本当に、ありがとうございます…!!」
「いえいえ、また欲しくなったら、私に声を掛けてください!木賀と申します!」
「わかりました。…紗里、いるかな?」
階段を登っていく。
ワイドパンツなのに、なんだか足取りが軽い。
「けいや!おかえり!」
「ただいま。どう、かな?」
「すんごく似合ってるよ…この状態でプリクラ撮り行こーよ!」
「賛成!」
やっぱり、良い奴だ。紗里は唯一の理解者。
「けいやは、いや、けいちゃんは…」
「ん?」
「『それでいい』んだよ!自分の好きな姿で生きなきゃね!」
「…うん!!」
-----それでいい-----
4/4/2023, 10:49:32 AM