せつか

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あの日君に渡し損ねた手紙は、今も引き出しの奥にしまってある。

とっくの昔に無くしてしまったと思っていたが、私はどうやらあの時からずっと捨てられず、懐に忍ばせていたらしい。
しわくちゃで、字も掠れて、読むのにだいぶ苦労するその手紙を、私は与えられた部屋の引き出しにしまっておくことにしたのだ。

君に渡すことはもう出来ない。
後悔と、自己保身と、謝罪と·····、確かにあった君への愛。
今さらそれを伝えたところで、何になると言うのか。
割れた卵は元には戻らない。
壊れてしまったものは修復することが出来たとしても、その傷を無かったことには出来ないのだ。
あの日、私が君につけた大きな傷痕は、隠すことは出来ても無くなりはしないだろう。

それでも昔のように笑いかけてくれた君に、私は何を返したらいいのか。
これは私に与えられた試練であり、チャンスなのだ。

君にあの手紙を渡すことはもう出来ない。
引き出しの奥に隠したあの手紙の代わりに、私自身の在り方で応えようと思うんだ。

·····なんて言ったら、君はまた怒るのだろうな。


END



「隠された手紙」

2/2/2025, 4:04:41 PM