今日も東京は雨予報、雨模様。
秋の長雨とは言いますが、「秋」にしては、少々暑いような気がする昨今です。
お題が「ひとりきり」とのことなので、こんなおはなしをご用意しました。
前回投稿分からの続き物。
土砂降りが続く都内某所、某深めの森の稲荷神社に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
その日は数匹の人外の家族——たとえば目黒川近くに住む化け狸の家族とか、妙正寺川近くに住む1人暮らしの猫又とか、野川のバカップル魔狐とか、
複数程度、身を寄せておりました。
自宅兼宿坊では、マナーとして人間の姿をとる大人の人外がニュースを確認していたり、
マナーなんて知ったこっちゃない子供の人外が動物の姿のまんまでわちゃわちゃ楽しく遊んだり。
皆みんな、思い思いにしておりました。
で、そんなこんなの非日常的な稲荷神社の、何が「ひとりきり」かといいますと。
なんと、大きな大きな、古いヘビです。
お酒がとっても大好きで、お酒のツマミも大好きで、昔々お酒で身を滅ぼした後も各地のお酒と各地のツマミを追求して、探求して、
そして、都内でお酒が美味いおでん屋台を始めてしまった大古蛇です。
「炊き出しには、丁度良いってもんさ」
おでん屋台の店主蛇、ひとりきりで大鍋に、たくさんのおでん種を投じて並べて、言いました。
「酒もある。ツマミも今作ってる。今日はこの稲荷神社の台所を借りて、おでんと酒の大宴会だ」
くつくつくつ、ことことこと。
ひとりきりで鍋番をする店主さんは、鍋を見つつ、酒を煮切りつつ、お肉のお世話もしっかりします。
くつくつくつ、ことことこと。
ひとりきりで複数組、複数匹の酒のつまm、もとい、避難場所で食べる美味を作る店主さんは、それぞれの「食べられないもの」も把握済みです。
ネギ科抜きのエリア、肉抜きのエリア、それぞれで鍋を分けまして、味も変えまして、
店主さんはひとりきり、おでんを作るのでした。
……ところでさっきから狐の子どもたち、狸の子供たち、犬の子供たちがぴょんぴょん!
店主のおでんの香りを察知して、やわらか豚軟骨やらプリプリ牛すじ串やらを狙っております。
「いいニオイがするぞ!」
「ごちそーだ!ごちそーだ!」
「ねぇ焼き魚は無いの、焼き魚は無いの」
「んんんん。とどかない。 みえないッ」
「おじちゃん、フライパンでお塩焼いてるぅ」
わちゃわちゃ、わちゃわちゃ!
ひとりきりで鍋番をする店主さんは、鍋を見つつ、子供たちの襲撃にも備えます。
わちゃわちゃ、わちゃわちゃ!
ひとりきりで複数組、複数匹の避難食を作る店主さんは、それぞれの「好きなもの」も把握済みです。
「嫌いなもの」だって、把握済みなのです。
「トマト食べるかい?」
「やだっ!」
「ピーマン食べるかい?」
「やだっ!」
「お肉はまだまだ、時間がかかるよ」
「うぅ、うぅー……」
ほらほら、もうちょっとで完成するから。
向こうで遊んでおいで。
大古蛇の店主さんは、子供たちを優しくぽいぽい。
台所から出しまして、そしてまた、ひとりきり。
ことこと良い音と良い香りをたてる鍋それぞれを、世話してお肉も追加して、
料理番の特権、ちょっとだけ、ナイショでつまみ食いしては、焼酎ロックでキッチンドリンキングと洒落込んでおったとさ。
おしまい、おしまい。
9/12/2025, 5:13:05 AM