作家志望の高校生

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エアコンの低いモーター音が、外から聞こえる蝉の声を掻き消す。他に聞こえるものといえば、時折響くページをめくる音くらいだ。
「……っあ゙ぁ!もう!終わんねぇよコレぇ……」
そんな静寂を、俺は構わず破った。8月も終わりに近付き、夏休みも終盤に差し掛かった頃。俺の目の前には、ほとんど白紙の提出課題が並んでいた。始めは余裕だろうと高を括っていたものの、いざ始めると、途方もないその量に心が折れそうだ。
「……うるさい。そこまで溜め込んだお前が悪い。」
「ひどい!ちょっとくらい手伝ってくれてもいいじゃん……」
鬼教官さながらの冷たさで追い込まれ、俺は泣く泣くペンを持ち直す。こういう時、冷徹な幼馴染は頼りになるのだ。俺がサボろうとすれば、端的かつ棘のある言葉で机に縛り付けてくる。
そんな風にして、ようやく終わりが見えてきた時。さすがに疲れた俺が泣き事を零す。
「うえぇ……もう文字なんて見たくもない……」
椅子から流れ落ちるようにして姿勢を崩した俺を、彼は横目でちらりと見た。これだけグダグダになっている俺を見ても、読書の手を止めやしない。仮にも幼馴染に対して、いくらなんでも冷たすぎるのではないだろうか。課題と向き合うのに飽きた俺がブツブツと文句を垂れ流し続けると、さすがに鬱陶しかったのだろう。彼は本に栞を挟んで、一瞬だけその視線を俺に向けた。
「……終わったらアイス奢ってやる。」
ぶっきらぼうに、窓の外なんかを眺めながら言われた一言。それでも、つれない幼馴染からの貴重な誘いだ。俺のやる気を引き出すには十分だった。
「……言ったな?……しゃーない、もうちょい頑張るかぁ……」
俺はぬるくなった炭酸飲料を飲み干し、椅子に座り直す。「……高いのは買わねぇからな。」
そんなことを呟く無口な彼の顔が、珍しく緩んでいた事には気が付かないフリをして。

テーマ:ぬるい炭酸と無口な君

8/3/2025, 10:25:33 AM