梨
いつも通学する道にあるケーキ屋さん。毎月違う種類のケーキが出てて今は梨のタルトが期間限定らしい。平日は毎朝と毎夕通るけど、その割には一度も足を踏み入れたことがない。別に甘いものに興味がない訳じゃない。むしろ逆、甘いものには目がないしリュックの中にはチョコやらグミやら常にお菓子は常備してる。だけど入ることができない。せめて、カフェならコーヒーと一緒にケーキとか食べても普通なんだろうけど、明らかに内装やら客層やらが女性寄りというか。甘いものが好きってだけで単身でその空間に飛び込んでくのも難しいんだよな。いつもテラスやイートインスペースには同じ大学らしき綺麗な人たちがケーキを頬張っていて羨ましい。あぁ、いいな、俺も行きたい…食べたい…
そんなことをポロッと一番仲の良い友達に話すと、「え、何をそんなに気にしてんの?別に行けば良いやん。」ときょとんとした顔で返された。そんな簡単に言うなよ、入学してからずっと踏み切れてないんだよ…と言うと仕方がないなと言う顔で「今から行こーや。どうせ課題やらへんやろ?」と宣った。確かに課題をやるようなモードに入らず、文字数の埋まらないレポートを前にして、急激に甘いもの欲が止まらなくなって言い出したんだけども。彼の迷いのない歩みはケーキ屋まで一直線で、清々しいほど簡単にその扉を開けた。昼休みが終わったけどまだケーキという時間帯でも無いから微妙に店内は空いていた。そのことにちょっとだけホッとした。
「なぁ、何にすんの?」
「…これ!梨のタルト。」
「ん。じゃあ梨のタルト一つと、モンブラン一つ。」
爽やかな午後、5限目までのゆったりとした空きコマをこんなにも優雅に過ごすとは思わなかった。自然と笑みを浮かべながらその梨のジューシーな甘みを味わい、栗のほのかな甘みも楽しんだ。これまで食べられなかった期間限定のケーキが悔やまれるけど、これから通うなら問題ない。太ることはほとんど確約されたけどもはやなんでもいい。週一の楽しみができたことに微笑みを隠せなかった。
10/15/2025, 8:03:03 AM