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お題:Kiss

冬の日の夜中。
僕は冷たくなったドアノブに手をかけていた。

なかなか開ける勇気が出ない。
と言うのもこの家の主である彼女とは、喧嘩の真っ最中なのだった。

ひょんなことからアパートに住めなくなった僕は、彼女の家に泊まることになった。
が、本当にちょっとしたすれ違いによって朝っぱらから喧嘩。

僕はアパートを飛び出して、あろうことか授業もサボり、友人に叱責された挙句ここにいるのだった。

深呼吸をして心を落ち着かせる。
結局どうすればいいかわからずにここにきてしまった。

彼女はきっと怒っているだろう。
僕を責め立てるだろう。
……謝って許してもらえるのだろうか。

考えても答えは出なかった。

でも、覚悟は決めた。

ゆっくりとドアを開ける。
部屋の中は明るかった。

気まずさから声を上げずゆっくりとリビングへ移動する。

彼女は部屋の隅にいた。
膝を抱え小さくなっていた。

その体は、小さく震えていた。

……言葉が出なかった。
体勢の問題があるとはいえ、彼女の姿はとても小さく見えたのだ。

目の前で自分の腕を痛々しいほど掴み、嗚咽を漏らしてる。
部屋には食事の後もない。
……きっと、帰ってからずっとここで……。

ああ。
僕がやったんだな。

そう感じた。

自分の情けなさを認識した途端、体が動くようになった。
彼女に駆け寄り抱きしめる。

ごとん。と彼女の右手から何かが落ちた。
咄嗟にそちらの方を見る。

金色の懐中時計だった。
ガラスは割れて、中の針も歪んでしまっていた。
……動いていなかった。

「……ごめん。」

僕の声は掠れていた。
目の奥が熱かった。

「……我慢したんだ。私、我慢したの。」

彼女はポツリと呟く。
何も言わずに背中を撫でた。

それをきっかけに、彼女は堰を切ったように話し出す。

「また戻したら……っ、全部無くなっちゃうから……。
祐介と向き合うって決めたからっ!
う….うっ……だか……らっ!
我慢……できた……よ!」

彼女は真っ赤に腫れた目で顔を上げた。
口角を無理にあげて。
彼女は笑いながら言ったのだ。

彼女の腕が僕を包む。
その腕に力が入った。

強く抱きしめ合う。
少し痛かった。
きっと彼女もそう感じてると思う。

霞む視界で彼女を捕らえ、唇を合わせる。

ああ、なんて暖かくて。
心地いいんだろう。

落ち着いたら話し合おう。
僕の思ったことをちゃんと話すよ。

……だから、君が思ったことも聞かせて欲しいんだ。





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2/4/2023, 2:43:19 PM