谷間のクマ

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《瞳をとじて》

「ねーねー明里ー、ちょっと目、閉じてみてくれる?」
「え?」
 ある日のお昼休み。私、熊山明里が親友のなつこと中川夏実とお弁当を食べていると、なつがふと思い出したように言った。
「だから目だよ目! 閉じてみて!」
「はいはい」
 私はそう言って母譲りの空色の瞳を閉じる。
「そしたら最初に思いついたことは?」
「え、最初に思いついたこと? うーんと……あっ! 醤油買わなきゃ!」
「そこかいっ!」
 私が答えた瞬間、なつのツッコミが入る。
「あと洗濯洗剤も買わなきゃ」
「うん、買い物リストはもういいから。じゃあ目を閉じて最初に思いついた人は?」
「ひとぉ? うーんと……、露店のおっちゃん」
 私は私の家の近所でたこ焼きの露店を開いているおっちゃん、通称露店のおっちゃんを思い浮かべる。前に道端でバッタリ会った時「近いうちにたこ焼き買いにおいでー」って言ってたんだよね。
「露店のおっちゃん?! これ目を閉じて最初に思いついた人が好きな人、って心理テストらしいんだけど絶対間違ってるよね?!」
「心理テスト?! いやいやいやいや絶対間違ってるって! だって露店のおっちゃんが出てきたのは近いうちにたこ焼き買いに来いって言われてたの思い出しただけだし!」
「だよねだよね! 明里の好きな人は蒼戒だもんね!!」
「ちょっとなつ?! あんたいきなり何を言い出すの?!!」
 当の蒼戒はちょうど教室にいなかったからいいが、いきなり何を言い出すのやら。
「だーって事実じゃん!」
「なわけあるかぁ!」
「隠したって無駄無駄〜! みんな知ってるもん!」
「それは絶対有り得ない!!」
「まあ最低でもあたしと紅野くんとハルは知ってる」
「知ってるって……事実無根なこと言われましても……」
「明里はさっさと自覚した方がいいよ〜。蒼戒結構人気者だし」
「はあ?」
「変な虫がつく前にちゃんと捕まえとかなきゃね」
「はあ……?」
 私はなつの言葉に生返事をして、お弁当に入っていた卵焼きをパクリと食べた。
(おわり)

※実際には作中の心理テストは(多分)ありません

2025.1.24《瞳をとじて》

1/23/2025, 4:47:37 PM