病室の窓からは名前の分からない木が見えていた。
葉はほとんど枯れ落ちていて、寂しい枝だった。
空席が目立つ病室で、カーテン越しに話した女の子のことをたまに思い出す。
思えばあの時から始まっていたのかもしれない。
「七咲先輩!見てこれ!」
裁判後に「勝訴」を知らせるようなポーズで白石千尋は入部届を持ってきた。
「入部届……マジ?」
「大マジ!ウチのクラスの彩音ちゃん!」
遅れて、気だるそうな女の子が入ってきた。
くすんだ金髪の根元は黒い。
僕の顔をじっと見て、首をすくめるような仕草をした。
多分、会釈だろう。
入部届けには整った字で篠塚彩音、と書いてある。
「よろしく篠塚さん。白石の友達?」
「です。ダンス、興味あって」
白石の方を見ると、ニヤニヤしている。
入部者集めの功績が誇らしいのだろう。
「そっかそっか!でもようやくこれで部として認められる、よな?」
白石に視線を渡すと、自信満々に頷いた。
「そりゃそうです!先生が言ってた部員3名の条件はクリアしました!これで文句は言わせません!」
「だよな!じゃあ早速職員室行こう!篠塚さん時間ある?」
「いいですよ」
机の上の入部届を3枚集めて、職員室のある2階に降りる。
これで我が部がようやく成立する。
「お前ら、マジで言ってんのかこれ」
意気揚々とやってきた僕たちを見て、神田先生はため息をついた。
僕と白石は口角を上げる。
「提示された条件は満たしてあります。部員3名、でしたよね」
「俺は全然構わないんだけどな。生徒会の審査通るか?これギリギリアウトだろ」
先生が悩む様子で見つめる書面には、3人それぞれの名前と、部活の名前「文芸・ダンス部」と書かれている。
「えー、どこがアウトなんですか?」
白石が不満そうに聞く。
「活動場所と内容。まず場所だが、文芸部なら部室1個で足りるけど、ダンス部は使える場所がない。そんで内容だが、部費を出して活動を認めるなら、活動実績が必要になるんだ。例えば文芸部だったら、文化祭までに文集作るとか。普段の言動からの推察だが、白石くん、文章書くのとか苦手だろ?」
2/20/2023, 9:59:22 AM