「『物語のお約束』といえば、爆破オチに主人公補正、それから恋愛系に鈍感。
『物語の約束』は、『ノックスの十戒』とか?」
公的文章の約束としては、会話文は「このように。」カギカッコの最後に句点を付けるそうだが、
大抵の現代小説、ライトノベル、雑誌編集等々では最後の句点が省略されがちである。
なんでだろな。某所在住物書きは首を傾けた。
「かく言う俺も、最後の句点は省略してるわな」
ところで物書きは、個人的になるべく正午から午後2時近辺の間で、2000字未満の文章を投稿できるよう、自身に対して約束を課している。
3年前は1000字未満、600字程度だった。
来年には2500字にでもなっているのだろうか?
――――――
「約束」と「お約束」では、意味が変わってくるような気がしないでもない物書きです。
今回はこんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某アパートの一室の、部屋の主を藤森といいまして、花咲き風邪吹き渡る雪国の出身。
3月から友人の誘いで、前々職の私立図書館に、復職してきたところでした。
その日は復職吹き込んだ友人と、前職でずっと藤森を支えてくれた親友とを招いて、
藤森のお部屋で、お疲れ様会と、これからよろしくお願いします会を、ささやかに開く予定。
いつもコスパと塩分と、糖質とを注意深く確認している藤森が、その日は少しだけハメを外して、
親友と友人が好きなお肉&お魚を、それぞれ、値引きしてない値段で買ってきたのでした。
「付烏月さんの甘い菓子に合うように、甘じょっぱいものと、サッパリしたものを作ろう」
付烏月、ツウキとはつまり、藤森の友人です。
「宇曽野のやつは酒が好きだから、やはり、塩味の効いたやつが良いだろうな」
宇曽野、ウソノとはつまり、藤森の親友です。
「本当に、良い友人に恵まれた。ありがたい」
双方が藤森の部屋に来るまで、あと2時間。
藤森はこの2時間で、美味しい、温かい、良い料理を2〜3品、可能なら5品、作る予定なのです。
少なくともお肉いっぱいの鍋はひとつ出すと、藤森、ふたりに約束しておりました。
シメを雑炊にするか、そうめんにするか、スープを吸わせてスパゲッティーにするか悩みますが、
まぁまぁ、そのへんは、ワイワイ食いながら決めれば良いのです。気にしない。
「そうだ。宇曽野が酒を飲むから……」
宇曽野が酒を飲むから、彼に「部屋に来る前にしじみを買ってこい」と伝えて、彼のための吸い物を作ってやっても、良いかもしれない。
考えながら藤森が、自宅のドアを開けると……?
どたんどたん、バタンバタン!
ドンガラガッシャーン!!
そうです、お約束です。
突拍子も無いことが発生したのです。
ぼっち暮らしの藤森の部屋で、誰かと誰かが取っ組み合いのケンカをしています!!
「なんだ!なんだ!?」
藤森が慌てて、買ってきたお肉も野菜もお魚も玄関に置いて、音がするリビングへ走っていくと、
「くっ、不法侵入者のくせに、なかなかやるな」
「お前こそ。人間にしてはスジがいい。藤森と俺達の敵でなければ、スカウトしているところだ」
あーあー、あーあー。
親友の宇曽野と、それから、3月から隣の部屋に越してきている「条志」と名乗るひとが、
どたんどたん、バタンバタン!
藤森の部屋でなにやら、取っ組み合って、妙な友情まで芽生えていそうではありませんか。
多分宇曽野は合鍵で、藤森の部屋に入ってきたのでしょう。条志の方は知りません。
何らかの方法で、双方部屋で鉢合わせて、
宇曽野は条志を「不法侵入者」と認識し、
条志は宇曽野を「藤森と条志の敵」と見たのです。
どちらも、悪い人ではないのです。
条志も、時折藤森がシェアディナーに誘ってやったり、条志自身がベランダ(……「べらんだ」?)にやって来て、ディナーのお礼を渡したり、
仲間には、本当に優しいのです――縄張り意識の強いヤマドリやルリビタキみたいに。
「条志さん……宇曽野、」
ひとまず、この縄張り喧嘩を止めなければなりません。藤森は大きく息を吸って、室内が防音防振加工されているのを良いことに、
お約束の言葉を、叫びました。
「ステイ!!!」
藤森の声を聞いて、宇曽野も条志もしずまります。
「状況!!」
藤森が腕を組み、また声を張り上げると、
「お前の部屋にこいつが、」
「機構の連中を部屋から追っ払った後、こいつが」
双方が双方で、双方を指差し、言ったとさ。
はてさて、条志が言った「機構」とは……?
3/5/2025, 5:03:47 AM