ミミッキュ

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"星空"

 ハナを連れて医院の屋上に上がり、夜空を見上げる。
 街中のはずなのに、それなりに高い場所だから二等星も見える。
 フルートと楽譜ノートも持ってきているので、ケースを置いて蓋を開け、組み立てて楽譜ノートを広げる。
 演奏するのは、【星と僕らと】。
 ジメッとする星空の下で、ゆったりとした曲調のものを演奏するのは、中々に乙なものだ。
 曲名や歌詞の中に『星』が入っているこの曲を、外で演奏するなら星空の下がいいと思っていた。
 だから今夜晴れているのを見て、屋上で吹きたいとハナを連れて上がった。
 気分は最高。夜闇の中から瞬く星々と柔らかな明かりを照らす月、この空間にフルートの音色が響くのはなんとも神秘的で、俺が演奏している姿を他人が見たら幻想的な空間になっているだろう。
 演奏を終えて口を離す。先程までうっとりとした顔で座って聞き耳を立てていたハナが立ち上がってゆっくり足元に来て、「みゃあん」と鳴いた。
 フルートをバラしてケースの中に仕舞って、地べたに腰を下ろして空を見上げる。
 日常を忘れさせる力がある星空を見上げながら、膝に乗って丸くなったハナを撫でる。
──こんな風に夜を過ごすのも、たまにはいいな。

7/5/2024, 12:59:31 PM