胃弱

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 『貴方の事、もっと教えてちょうだい。
 とても興味があるわ』
 
 こんな事を聞かれたのは初めてだ
 
 私はこの仕事を長くやってきたつもりだ。
 だからこそ、こういう仕事は早く終わらせてしまいたいと考えている。

 だが、そんな純粋な瞳で見られてしまってはその質問に答えなくてはならないではないか。

 本来では、こんな事は仕事上許されない。
 
 だけど何故だろうか。
 君とは長く話をしていたい。

 私は気付くと、君に色々な事を教えていた。
 好きな食べ物、最近ハマっていること、仕事の事…。
 時間はあっと言う間に過ぎていた。

 久々に楽しいと思えた。
 同時にこの仕事を遂行しなくてはいけないという苦痛がやってきた。

 慣れない。いや、慣れてはいけないのかもしれない。

 ついに時間がやってきた。
 
 時が来たことを伝えると君は何故か笑顔を見せた。
 何故、そんなに嬉しそうなのか聞いてみた。

 『ふふ、だってずっと待っていた人がようやく迎えに来てくれたんだもの。嬉しいに決まっているわ』
 
 わからない。だって君と私は今日初めてあったばかりではないか。
 
仕事を始める前の記憶はもちろん覚えていない。
だからといって、これとはきっと関係は無い筈だ。

『ねぇ、死神さん。聞いて。私ね、ずっと前にとある約束をした人がいたの。
 その人は、とても勇敢でどんなに危険な場所でもお国の為に頑張ってくれてね、ある日その人に言われたのよ。
 必ずこの国を守って、君が安全だと思える場所にする。だからそれまで待っていてくれって。』

『だけど、結局その人とは会えないままだった。哀しくて泣きたかったわ。
でも、この年齢になるまで頑張ったのよ。ふふ。
あの人と一緒に残した宝物。今ではすっかり大きくなって、私に孫まで見せてくれたわ。
貴方にも見せたかったわ…』

 最後の方だけは、小さな声で言われてしまったので聴き取れなかった。

 彼女の話は、何故か分からないが胸に響く。

 そろそろ本当に行かなくてはならない。

 さぁ、一緒に逝こう。なるべくゆっくりと。
 次は君の事を教えてくれ…
 君といると何故か安心するんだ。

 そう言って、私は美しい彼女の手をとった。
           
            タイトル:もっと知りたい
 


3/13/2024, 6:32:32 AM