身体が動かせなくなってきているのが、自分でもわかる。
頭の中がぼーっとして、思考をしようとしても文字がほどけて考えがまとまらない。
目の焦点も、ちょっと気を抜いただけでぼやけてしまいそうだ。
俺達は、半獣と思い込まされていた傀儡だった。あの人工結晶のエネルギーで生かされていた、とっくに死んだ人間だった。世界の平和のためとかいう建前を刷り込まれた、人工結晶を集めるための道具だった。
俺達の主だった野郎のドロドロの私利私欲にも気付かず、利用されているとは夢にも思わない、さぞ使い勝手の良い駒だったろうよ。
結晶を巡って、アンタらとバチバチに戦ったりもしたな。
俺達の負傷のほとんどは、あの人工結晶さえあれば三日足らずで元通りだ。だが、人間の負傷は…そうじゃないだろ?
お互い利用されていた者同士で、最後は手を組んで真相を暴いたとはいえ…俺達は、アンタらの身体を傷付けた存在だ。アンタらが殲滅を行っていた「怪物」と、ほぼほぼ変わらない存在だ。
そうだってのに。
消えかけた俺達を前に、なんで悲しそうにしてるんだ?
人口結晶の殲滅がやっと完了して、居残ってた俺達もようやく消えようとしてるんだぜ?散々頭を悩ませていた危険因子が消えるんだから、もっとこう、喜ぶもんじゃねぇのか。
敵に情を移したら命取りだって言うだろ?あの人工結晶の作った怪物が相手なら尚更そうだ。怪物相手に戦っていたアンタらなら、一番わかってることじゃないのか?
…いや、殲滅を完遂したアンタらだ。俺がとやかく言うのは釈迦に説法だな。
あいにく輪廻転生は信じてないもんで、生まれ変わったらまたどうのってのを言う気はないが…。
だが、人間の夢が持つパワーは、アンタらもよく実感しただろ?なら、アンタらが俺達を忘れない限りは、夢枕に立つくらいはできるだろうさ。
俺達に見られても恥ずかしくない寝顔、体得しとけよ。
(『ドロモアレース』―最後の現―)
11/14/2024, 3:52:58 AM