「今日、元彼からもらったお気に入りのマフラー見つけてさ」
「ああ…元彼の?お気に入りだったんだ?」
「うん。これ。ピンクと黄色と白の。ほんわかしてるでしょ」
「まあね。久しぶりに発見して、ノスタルジーな気持ちにでもなった?」
「ううん、特に何も感じなかった」
「でも、やっぱこれ可愛いなあと思って」と屈託のない笑みを浮かべると、ユキは首元のマフラーに目を向けた。似合ってないと言いたいのに、春のように柔らかなユキにはそれはぴったりで、逆に俺が悲しい気持ちになった。いい感じだと思ってた女の子が、元彼のマフラーを付けてくるって、もう完全にあれでしょ。脈なしでしょ。くそう。
「まあ、似合ってるけどさ」
「ふふ、ありがと」
「でも俺、ユキにぴったりのマフラーこの前見つけたんだよなぁ」
元彼に密かに対抗する。会ったことのない元彼に。嫌なことなんてされてないけど、なぜか嫌いな元彼に、ユキと付き合えないならせめて勝ちたい。いや、もしかしたら付き合えるかもだけど?
「ユキにプレゼントしたいって言ったら、どうする?いる?」
揺れる心臓を抑えて、テーブルに視線を送った後、ユキの顔を窺った。うわぁ、緊張する。返事次第では、発展するかもしれない。するって思ったら、しない時にショック受けるかもしれないが、でもすると思いたいのは片思いの楽しいところじゃない?いや、片思いの嫌なところ?
そうだねえ。
しばし考えた後、俺がドキドキしているのにも関わらず、彼女は以前変わらず柔らかな笑顔で口を開いた。
「今のところこれで大丈夫かなぁ」
いつもありがとね、タクヤ。
そう微笑む彼女は天使か悪魔か。はたまた、そもそも俺なんて眼中にないのか。
まあどちらかと言えば、今は悪魔にしか見えず、「そうすか」と俺は静かに項垂れた。
「あ、これと色違いの、駅前にあったよ。おそろにする?」
「え?」
お気に入り/片思いの女
2/17/2023, 3:01:43 PM