悪役令嬢

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『モンシロチョウ』

ここは教会の裏にある寂れた墓地。

かつて美と力を持っていた人間の肉体が、
ウジ虫の餌食となっている場所だ。

殉教者はこの忘れ去られた場所で一人、
せっせと掃除をしていた。

伸びきった雑草を抜いて蜘蛛の巣を取り払い、
濡らした雑巾で墓石を丹念に磨く。

聞こえてくるのは虫の鳴き声と鳥のさえずり。
足元には可愛らしい草花が揺れ、墓地全体が
穏やかな静けさに包まれている。

ふと殉教者は作業の手を止め、気配を感じた方へ
視線を向けると、木陰で道化師がロリポップを
ぺろぺろと舐めていた。
「😋🍭」
この者はワタクシと同じ
「†漆黒ノ闇倶楽部†」の団員だ。

道化師はスタスタと殉教者の方へ近づいてきて、
彼の顔を覗き込んだ。
「😟?」
(訳:何してるの~?)
「掃除をしているのですよ」

何せここは人が滅多に訪れないものだから、
自分以外に彼らの面倒を見る者は誰もいない。

身寄りのない者も、生前栄華を極めた者も、
行き着く先は皆同じ。やがて人々から忘れ去られ
土に還るだけだ。

「ふう」
作業を終えて一息つく殉教者の背後に
いつの間にやら道化師が立っていた。
手にはシロツメクサやタンポポ、イヌノフグリ
やサンガイグサなどが握られている。

「おや、花を摘んできてくれたのですね。
ありがとうございます、スタンチク」
「😆🌼」

墓標に花を添えると、殉教者は
土の下に眠る者たちへ祈りを捧げた。
彼の真似をして道化師も隣で手を合わせる。

「😑🙏」
(訳:おててのしわとしわを
合わせてしあわせなーむー)

二人の頭上に白い小さな蝶がひらひらと舞う。
東の宗教では蝶は生まれ変わりの象徴とされている。
もしかしたらこの蝶たちは、肉体から
抜け出した魂を天の国まで連れて
行ってくれる使者なのかもしれない。

どうか彼らが安らかな眠りにつかれますように───。

5/10/2024, 5:00:03 PM