時刻、午後四時過ぎ。夕と夜の間のスーパーマーケットの中、カップラーメンやスパゲティが売られているコーナーの一角から『鋭い眼差し』でお惣菜売り場の様子を覗っている怪しい人物が一人。
誰だ? 俺だ。
何をしているのかというと、お惣菜に割引シールが貼られるタイミングを見計らっているのだ。
(くっ……まだか……いつもなら、そろそろ割引シールが貼られてもおかしくない時間だが……)
と、不審者丸出しな感じでラーメンコーナーを行ったり来たりしながら、さりげなくスマホを見て時間を確認していると
ピンポンパンポーン
(きたきたきたきたあっ!!)
何が? 店内放送だ。それも俺が待ち望んでいた『現在、お惣菜売り場では全品2割引きで……』ってな感じのお得情報を報せてくれるヤツである。
それすなわち、俺の大好物である『鮭ハラス炙り焼き』がお値打ち価格で買えることを意味する。
何を買うでもなく、ボケっとラーメンコーナーをうろついていた俺のテンションが一気に爆上がりした。
(今日は疲れたし、鮭ハラスをつまみにして一杯やるか!)
そう決め、急ぎ足でお酒売り場に立ち寄ると、缶チューハイ2缶をカゴの中に入れ、そのまま来た道を引き返してウキウキ気分でお惣菜売り場に向かう。
向かおうとした……が……聞こえてきた店内放送を前に、俺は我が耳を疑った。
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、いらっしゃいませ~! 現在、お惣菜売り場ではオセチの予約を承っております」
冷凍食品コーナーのあたりで、ぴたりと足を止め、フリーズしてしまう。
(そうか、もうオセチの季節が近づいてきてるのかあ)
ボケてしまって何もできなくなってしまったけど、オセチに入ってた婆ちゃんの作るゴマメは絶品だったなぁ、母さんの作るブリの照り焼きなんか最高で、一切れで日本酒一本はいけるなぁ…などと、思い出に浸る。
……じゃなくて、
(割引のお報せじゃないのかよ!!)
通路の端で立ち止まり、苦虫を噛み潰したような顔をしているであろう俺を見て、通り過ぎるお婆さんが怪訝そうな顔をする。
ごまかすように『鋭い眼差し』で、買う予定もない冷凍ギョーザを品定めしているフリをして取り繕う俺であった。
10/16/2024, 8:11:39 AM