安達 リョウ

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街(ヒーローは心の内に)


ここは商店街のど真ん中にある特設ステージ。
誰もが一度は見たことがあるだろう戦隊もののショーが、華々しく開催されていた。

「わっはっは、この街は我々が支配した」
「キャー! 誰が助けてー!」
―――そこで颯爽と三人のヒーローが登場。

「この街の平和は俺達が守る!」 

何やかんやで見事敵を討ち果たし、めでたしめでたし。
「平和は保たれた! みんな、また会おう!」
決めポーズと共に流れるBGM………。

…………………。

割と広めな、そのステージの真ん前に並べられたパイプ椅子に座る客からの拍手は皆無だった。
そもそも人が居ず、いるのは眠りこけている老人と、熱心にスマホを触る高校生のみ。

「あー、やってられねーよな」
―――ショーが終わり、控えの仕切り場所で衣装を脱ぎ身支度を整える。
その内の緑役の一人が、大仰に盛大な溜息を吐いた。
「こんな子供のいねーとこで戦隊モノやったって何の効果もなくね? 主催者はどういう経緯でこれ企画したのかね、気が知れないね」
「………そう言うなよ。こういうのも街おこしの一環だろ」
黄役が、な、と赤のリーダー役を務める彼に話を振る。
「え? あ………そうだな」
「何だよその反応。リーダーのお前がそんなんじゃ話にならねーよ」
「―――うん。ごめん」

次に行く特設イベントの打ち合わせをし、彼は二人と別れると寂れた街の中を歩き出した。

帰ったらすぐ予備校行って、
それ終わったら母さん病院に連れてって、
ああ帰りに米買わなきゃ。
今日晩御飯何にするかな。昨日何作ったっけ………

「おーい、ちょっと待った!!」

え。と思い振り返ると、一人の男性が息を切らしながら自分に手を上げ走ってくる。
あれ、どこかで見たような………。
―――長いこと走ったのだろう、男性は苦しそうな表情で彼の前で屈みつつ立ち止まると、はい、と手の中の封筒を徐ろに差し出した。

「忘れてたでしょ。バイト代」

―――ああ、確かに。
わざわざすみません、と頭を下げ僕はそれを有り難く受け取った。
「弾んどいたから、また来てよ」
笑顔でそう言われ、僕は先程のほぼ無観客の状態を思い出す。
「またやるんですか?」
「ああ、また今度な。次はもう少し時間帯変えて、場所も移動しないとなー。ビラももっと子供向けに作り直さんと」
うんうん頷きながら考え込む男性に彼は苦笑する。
「今どき流行らないと思いますよ、こういうの」
「えっ? じゃあ何でやってんの、戦隊ヒーロー。他にいくらでもバイトなんてあるのに」

―――何で?
………何でだっけ。

黙ってしまった僕を照れだと勘違いした男性が、僕の様子にその場で豪快に破顔する。
「いいよな、戦隊ヒーローって夢があってさ。子供なら誰でも一度は通る道だよな」
「………」

おとうさん、ぼくもしょうらいヒーローになる!
ぜったいあか! あかがいい!

―――いつの間に忘れてたんだろう。
赤しか嫌だって、ごねて困らせてたのはいつだったっけ………。

「この街をまた昔みたいに、活気づいた賑やかな街に戻すのが俺の夢なんだよ」
それってさ、慈善活動というか戦隊ヒーローに似てない?
―――男性は一通り喋り倒すと、僕の背中をばしばしと叩いて帰っていった。

ふと、手にあった封筒を開く。
僕はその中身を見て目を丸くした。
………これじゃほんとに慈善事業じゃん、おじさん………。

彼はそれを大事そうに元に戻すと、それまでずっと地面にあった視線を空へと上向けた。

―――今日の晩御飯は少しだけ奮発しようかな。

あ、まずい、遅くなってしまった、と。
腕時計に目をやった彼は、慌てて家路を急いだ。


END.

6/12/2024, 2:32:42 AM