―――もっとホラーを楽しめよ…
何十年も前から廃墟となっている洋館にやかましい大学生5人組がやってきた。言わずもがな、肝試しのためである。そして無許可。不法侵入。何が起こっても自業自得。
洋館は張り切った。何しろ廃墟になってからお客が来たのは初めてなのだから。犯罪者だったり裏社会の人だったりはたまに来ていたが、あんまりにもマナーが悪いのでお客さま対応しなかった。
だけど、この5人はご丁寧に挨拶しながら入ってきた。1人を除いてみんないい笑顔で元気よく館内を闊歩している。
嬉しくなってロビーを昔のような綺麗な状態にしてみせた。可愛い悲鳴に大満足である。
廊下に出ようとしたから明かりをつけてあげた。装飾の凝った客室や綺麗な絵画を飾った談話室、見晴らしのいいバルコニーや天蓋付きの大きなベッドがある寝室。前のご主人たちがこだわり、絶賛した屋敷を案内した。
5人ともたくさん叫んで走って楽しそうだ。みんなも嬉しかったのか、いつになくはしゃいでいる。
最後に美しいステンドグラスをふんだんにあしらったホールへと案内する。もっとも栄えたあの時期を再現して5人にみせた、はず、だった。
綺麗だと言ったのは1人だけで、あとの4人は廃墟最高と歓喜の雄叫びをあげた。
見かねた奥様が窘めようと近づくと、フッとろうそくの灯のように消えてしまった。動揺したお嬢様たちが奥様を返せと掴みかかるが誰にも触れることなく消えてしまう。坊っちゃんたちが物を投げつけようとしても何にも触れられず、使用人が周りを取り囲んでも、5人は何の影響も受けていない。1人だけ驚いたり4人の誰かの後ろに隠れたりしていたが、いたって健康そのもの。
次々と消えていく幽霊たちをその1人だけが最後まで見届けた。残るはご主人だけ、となったときだ。ホール前方にあるステージに5人は並んで記念撮影を始めた。そこはご主人が最期を迎えた場所でもある。当然、写真にはばっちり写ったらしい。
アワアワしているご主人のことは直接みえていないのか、見当違いな方向を向いて丁寧に挨拶をして5人組は帰っていった。
その後、すっかり静かになってしまった洋館でご主人は寂しいと泣いて、成仏してしまった。
なんか、もう、色々と言いたいことはある。でも喜びやら怒り、寂しさ、たくさんの感情がぐちゃぐちゃになって言葉にならない。
だが、まあ。一つ言えることは、
―――もっとホラーを楽しめよ…
人間ってこういうの好きなんでしょ。
なんでそんなに予想外なことばっかりするの。
みんないなくなっちゃったじゃん。
寂しいよ、行かないでよ、一人にしないで…
【題:どこにも行かないで】
6/22/2025, 12:55:17 PM