俺の友達は主体性が無い。
出かけた時の昼食を聞けば、
「なんでもいー。」
学校の科目選択さえ、
「お前と同じとこ行く。」
と、こんな調子である。
彼は全ての選択を俺に任せてくる。
普段は隠しているが、俺は人の選択権を預けられることが好きだ。
自分とは全く別の人生を歩み、全く別の思考を持つ人間の行動を、己の言葉一つで動かせるなんて、愉悦でしかないだろう。
そんな俺と彼は、頗る相性が良かった。
選択が嫌いな彼の選択肢を、選択が好きな俺が乗っ取る。
俺はそれが嬉しいし、彼だってそれが気楽だ。
彼は割となんでも卒なくこなすタイプの人間で、どんな選択をしたって最終的にそこそこの結果を残す。
重すぎない選択の責任が、心地よかった。
そんな彼が、唯一自分で選択したがったことがあった。
高校3年、進路を決める時期。
俺は夢を追って、上京することを決めた。
けれど、主体性の無い彼が東京なんて騒がしい街に出てしまったら、俺以外の指示を聞いて、俺から離れていってしまうのではないか。
要は、お気に入りの玩具を取られるのを恐れる子どもの我儘と同じである。
俺は、彼に県内の大学へ進学することを勧めた。
しかし珍しく彼は渋い顔をして、ぽつりと反対の言葉を零した。
ずっと俺の意見で人生を決めてきた人間の、初めて見る選択の瞬間。
俺は何も言えなくなった。
もう俺がいなくても生きていけるのだと、彼は別に、選択ができないわけではなかったのだと、知ってしまった。
「僕、お前と一緒の夢見たい。……一緒の大学、受験する。」
縫い留められていた口が解けて、恐れて、凍って、固まってしまった心の何かが溶けた気がした。
彼は、俺と一緒にいたくてわざわざ、嫌いなのに選択をしたのだ。
「……ああ。……一緒に、行こうか。」
俺はこの日、記憶にある中で初めて他人の選択を認めた。
テーマ:それでいい
4/5/2026, 8:48:52 AM