シシー

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 何十年かぶりの家族旅行だった。身体は疲れきっていたけどまったく嫌な感じはしなくて、心地よい疲れとはこのことかと納得する。こういう疲れならたまにはいいかもしれない。そう思いながら帰りの飛行機に揺られながら目を閉じた。


 たぶん、これは夢なのだろう。眠る直前まで小さな窓の外をみていたからこんなにもリアルな夢をみているのだ。
 飛行機の翼に何かがしがみついている。高速で雲の中を飛ぶのを楽しむように、鳥のような羽に覆われた手のようなものを広げて風を受け、そして流す。
気味の悪いそれをみていたら、黄色の目がギョロリと私の方を向いた。鳥のように大きくてまん丸な目が、人間の顔に無理やりはめ込まれている。なのに口や鼻は人間のまま。
あまりの光景に目も離せずにいると、それは勢いよく飛行機の翼から機体へと這ってきて小さい窓いっぱいに顔面を押しつけてきた。無感情だった顔が喜色いっぱいに笑う。とても嬉しそうで、幸せそうで、安堵しているように感じた。でも気持ち悪い、すごく気持ち悪い。得体のしれないものに喜ばれる自分の存在すら気持ち悪くなるような、そんな顔。
 これは夢だ、夢でなければいけない。なんで、どうして、こんな夢を。

 ガクン、と大きく機体が揺れた。驚いて目を瞬かせると同時にアナウンスが流れる。もうすぐ着陸するという内容だった。ハ、と短く息を吐き出して、横顔を照らす夕日に気づいた。どうやら雲を抜けたらしい。夕闇と眩しい黄色の光が混ざってとてもきれいだった。そう、夕日はきれいだった。きれいだったんだ。とても、きれいで、きれい。

「…あの子と同じ」

 そういえば、夢の中のあいつも同じ顔してたっけ。
 あの子はもういないのに、変なの。

 

             【題:はなればなれ】

11/17/2024, 6:11:42 AM