茎わかめ

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時計の針が重なって

 一日のなかで時計の長針と短針が重なるのは、二十二回。それはなんだか、酷く自分を興奮させた。一日は二十四時間だという世界の仕組みが一変し、秘密の二時間が存在するような、世界の秘密に気づいてしまったような、不思議な感覚だった。
 子供であった自分には、針が重なる理由をきちんと理解していなかった。故に、自分が寝ている間に全ての時計が止まっていて、誰も知らない二時間が存在するのだと思っていた。それを違うと知ったのは、はて、いつだったか。

「ただ、今でも思うのはね。数えきれない回数を刻んで動くのに、二つが重なるのはたった二十二回なんだよ」
 ロマンチックじゃないか? と、目の前の人は続けた。
 パタリと閉じ、机に置いた本のタイトルに見覚えはなかった。ただ、英語のようで違う文字が、ひっそりと踊っている。読んでいた人を引き立て役かのように、ひっそりと。
 僕はそれ──正確には相手の、整った顔の中で一番動いている口元──を見ながら、ぼけっと突っ立っていた。ただ、綺麗な人はいつどこから見ても綺麗だナァと、家に帰ってからバカじゃないかと思うようなことだけが浮かんでいた。

2025/09/25 全体的に短い方が読まれるのか?

9/25/2025, 9:34:00 AM