人混みは苦手。流れを見て歩かないと、上手く進めない。手を引いてくれる人がいるうちは、そんなこと全然考えなくてよかったのに。
友達に見られたら恥ずかしいからって、手をつなぐのをやめたのはいつだったっけ。
「うわ、ほんとに降ってる」
駅の外は雨だった。出掛けにママが今日は降りそうだからと言うので信じてみたけど、なかなか降らないから持って出たことを後悔し始めていたところだった。やっぱり信じて良かった。さすがママ。
傘を開こうと留め具を外すと、真横に人が並ぶ。何だか妙に距離感近いなぁ、と思ってちらりと視線をやると、ばっちり目が合った。
「パパ!」
「助かった〜、パパ傘持ってないんだよ」
なんて言いながら嬉しそうな顔。
「ママに言われなかった?」
「朝は晴れてたし、降らないと思って」
「あーあ。ママを信じればよかったのに」
「そうだな〜。でもほら、可愛い娘がちゃんとママを信じて傘持ってたから大丈夫!」
そう言って何故か誇らしそうに親指を立てる。
「あ、でも……学校のお友達に見られたら嫌?」
ほんの少ししゅんとして見えるその姿は、なんだか私より子供みたいに見えた。
「さすがにパパだけ濡れて帰れとは言わないよ。今日は父の日だし、特別ね」
「良かった〜!父の日最高!」
何年振りかに肩を並べて歩く帰り道。懐かしくてくすぐったい。たまにはこんな日も悪くないかな。
〉相合傘 22.6.19
6/19/2022, 3:33:27 PM