夜の海
山育ちの人間が海を見ると、なんと広いんだと開放的になる。それこそ、小さな悩みはまさに小さな悩みなのだと思わせてくれる。
ただ、それは昼の海の話。
静かな夜の海に来ると、その小さな悩みが視界の全てに広がっていくように思える。人も光も遮るものがなく、ただ広がっていく。気分転換にと浜辺を歩いても、いつの間にか悩みのことで頭がいっぱいになっている。
何を悩んでいるの? 並んで歩く彼女の言葉。
夜の海は悩みをとめどなく広げていく。でも、彼女のなんてことのないその言葉が、それを遮ってくれた。
なにも。
うそ。
うん。でもいいんだ。今日は悩むのは終わり。明日にする。
そう。 彼女が腕を絡める。
ねえ、どこまで歩くの?
そうだな。あそこの堤防まで。そしたら戻ろう。
ちょっと遠くない?
いや?
ううん、いいよ。
季節が進んで夜風に涼しさを感じるようになってきた。彼女の手の温もりが、心地よくて優しい。
8/15/2024, 11:15:34 PM