沙和良

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「一つだけよ」
 そう母親に言われてしまえば、逆らえない。
 ゆきはお菓子売り場で真剣にお菓子達を睨みつけていた。
 チョコレートが食べたい。でもこの前食べたポテトチップスはとても美味しかった。このクッキーはだいぶ前に食べてこっきりだから久しぶりに食べたい。キャンディの袋はいっぱい入っているからとってもお得に感じるーー。
 むむむ、と悩む姿に通り過ぎる大人達から暖かい視線が送られていることにも気づかない。
 選べるのは一つだけ。
 あれが良い、これが良い、こっちは昨日食べた、あっちはあんまり好きじゃなかったーー等々悩みに悩む。
 うーとかむーとか眉間にシワまで寄せて悩む娘に母は呆れた様子で声をかけた。
「まだ決まらないなら、先に他の所に行くよ。また来よう」
 1回目は無視。分かっていたので、母はゆきの首根っこを捕まえて手を繋いだ。
「ほら」
 無理やり連行されていくゆき。その顔は未練がましいさがありありと現れていた。
 母親と一緒に野菜やお肉、お魚といった所に次々と立ち寄る。母はそこらから買い物かごにいれたりいれなかったり。ゆきはそんな姿を心ここにあらずで見ていた。
 食パンが置いてあるコーナーに辿り着き、食パンを選ぶ母親。商品を選ぶのを見るのに飽きたゆきは落ち着きなくキョロキョロした。
 すると、小さい花を見つけた。
 見たこともない花に興味津々に手を伸ばした。母はその姿を見て首を傾げた。
「ゆき、落雁好きだっけ?」
「らくがん?」
 聞き覚えのない言葉にぽかんとする。
「お菓子だよ。食べたことあったっけ?」
 可愛らしいお花の形をじっと見る。……お菓子?
 ゆきの目はいきなり輝いた。
「ママ、これ欲しい」
 落雁が入っている容器を差し出すゆき。母親はその姿を見て一瞬怯む。
 ……値段が、いつも買っているスナック菓子の方が断然安いのですんなりと頷きづらい。
「これだけにするから!」
 うるうると上目遣いのおねだり攻撃。
 母は逡巡し……、根負けしたかのように落雁を受け取った。
「……今日だけだよ」
 手に取った落雁の容器が買い物かごに吸い込まれていくのをみてゆきは目をキラキラさせる。
「うんっ! ありがとう!」
 ゆきはお母さんの手をぎゅっと握った。

4/4/2024, 6:52:32 AM