霜月 朔(創作)

Open App

光輝け、暗闇で



冷たい闇が街を覆う深夜、
お前は、夜陰に紛れ、
私の部屋を訪れる。

ただ。お前の口付けと温もりを、
受け止めるだけ。
嘗てお前を傷付けた私には、
お前を求める資格など、
有りはしないのだから。

お前の温もりに抱かれて、
心の奥の想いが疼き出す。
それを必死に押し隠し、
お前が告げる愛の言葉に、
気付かない振りをする。

まるで、
過去に紡いだ絆など、
忘れたかのように。
溢れそうになる想いを、
懸命に、飲み込む。

そして、
熱を帯びたお前の瞳を、
避けるように顔を背け、
お前に告げる。
『光輝け、暗闇で』
…と。

夢を描けないと言うのなら、
せめて、この暗闇の中で、
私の事など、忘れて、
輝いて欲しい。

このままでは、
お前は、未来に向かって、
歩き出せないだろう。
過去に囚われ、
後悔に藻掻き苦しむのは、
私だけで、充分だ。

なのに、お前は、
何度も私を抱くんだ。
私の言葉には答えず、
熱く湿り気を帯びた口唇で、
私に何度も口付ける。
そんなお前の温もりの中で、
私は未練との狭間で藻掻く。

私には、拒めない。
だが、求められない。
お前と愛し合った過去も。
お前と戯れるだけの今も。
お前と共にいる未来も。

私には…。
お前と共に居る未来なんて、
赦される筈がないのだから。

5/16/2025, 9:13:06 AM