紅い血が誰もいない教室を鮮やかに染めていた。中心には天使のような笑顔で彼女が佇んでいた。
「私は君のためなら、なんだって出来るよ」
今この瞬間にあの日の言葉を思い出した。
──僕は人と話すのが苦手で顔が良い訳でもなかったからよく「陰キャ」などと云われてヒソヒソと馬鹿にされるのが日常だった。でも、よくクラスで可愛いと噂されていた女の子から「放課後に裏庭で待ってます」との手紙を靴箱で受け取って僕は腹が立った。どうせ罰ゲームなんだろ、そろそろはっきり言ってやろうと考えて裏庭に足を運んだ。
「あ! 来てくれたんだね、嬉しい!」
「なあ、これ嘘なんだろ?」
「どうして?私は嘘なんてつかないよ」
「そう言って、罰ゲームで僕を嵌めるんだろう?」
「違うよ、どうしたら信じてくれるの? 手紙にもあるでしょ、心の底から君を愛してる、なんでも出来るんだって、全部本当だよ?」
「だったらさあ証拠を見せてくれ、僕のために──」
「分かった! 私は君のためならなんだって出来るよ 」
ああ、なんて短絡的な考えだったんだろう。最悪だ。
「ね、本当だったでしょ? これで邪魔者はいないね」
「さっ、先生来る前に逃げよ?」
もう何も言えない。言いたくもない。
「僕のために、僕をいじめたやつらを殺してくれよ」
嘘だと思ったんだ。まさか本当に愛のためなら殺人をするなんて考えもしなかったんだ。言い訳をしながら僕はこちらへ差し伸べる彼女の血に染まった白い手を呆然と見ていた。
『愛があれば何だって』
5/16/2023, 11:36:47 AM