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失ったものが大きすぎると、何をしたらいいのか分からなくなるものだ。
そう気づいたのは、ベスを看取った時だった。

ベスは、私が8歳の頃に飼い始めたゴールデンレトリバーだ。
家に来たときはまだ子犬だった。
イタズラ好きでかまって欲しいときは決まって洗濯物を漁って、母に怒られていた。

最初は、家族の関心を独り占めにしてしまうベスの存在は嫌だった。
関心を取り戻すために、物を隠したり、宿題をやらなかったりした。

ある日、私はイタズラで母にこっぴどく叱られて、布団の中で泣いていた。
そんな私の背中によりそってくれたぬくもりが、ベスだった。
私が顔を上げると、ベスは涙を舐めてくれた。
それでようやく、私にもベスを受け入れる気持ちができた。
子どもの私は単純なもので、自分に優しくしてくれるものは何でも好きになった。
そうしてベスと私は、まるで仲の良い姉弟のように常に一緒にいるようになった。
進学先を実家から通える距離の学校にしたのも、ベスと離れることが考えられなかったからだ。

そんなベスは、今私の前で静かに眠っている。
15年。長く生きたほうだ。
いや、短い。
もっともっと、私が生きている間はずっとそばにいてくれると、どこかで思っていた。

9/10/2023, 11:19:15 PM