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 年間パスポートを買うくらい水族館が好きと言う。案内してくれると言うので、行ってみることにした。
 熱い日差しが照りつけるなか、水族館にたどり着いた。ひんやりした空気に包まれる。水と魚の群れが涼しげで、ほっとする。
 一つ一つ丁寧に水槽を見ながら行く。何度も見ている景色だろうに、目を輝かせながら説明してくれる。

 でも、水族館のカフェで、ひと休みしている今、ずっと無口なのだ。水槽の前では、あんなに話していたのに。
 なんとか話題をつないでみるけれと、とうとう会話が途切れた。とりあえずニコニコしてみたら、笑顔だけで返される。仕方なく目の前の飲み物を口にふくむ。ぬるく気の抜けた、ただの青い水。
 ああ。今の君も、この気の抜けた炭酸水のようだ。

「ぬるい炭酸と無口な君」

8/4/2025, 8:30:02 AM