天竺葵

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変わらないものは無い

クッションは、この位置。
枕は、この並び。
ペンとノートは、右の引き出しに。
コーヒーセットは、トースターの隣。
リモコンは、テーブル真ん中より少し右。
あの子のパジャマは、タンスの下から三段目。
二人でお揃いのマグカップは、一段下げた方がいいか。
そういえば、タオル取りづらそうだったな。
増えた化粧品、どこにしまおうかな。
あの子のお気に入りのお菓子、買いだめしたけど取りやすいところにあったら食べすぎちゃうしな。この裏に隠しとこうか。
…無いと思ってたら。使ったら元に戻してって言ってるのに。
同じ場所にへばりつけられてたものたちが、あの子と出会ってから羽を持ったみたいに自由に意味を持って動き出している。
決まった位置になくて、少し生活しづらくなるところもあるけれど、そんななんでもない日々すら愛おしい。
「最近よく笑うようになったよね」
片付けに飽きたのか、雑誌を開いてソファにくつろぐ彼女が語りかけてきた。
「そう?」
「ほら、さっきもなんにもないのにニヤついてたよ。ちょっとキモかった」
「えっ」
「ウソウソ。君の笑顔、好きだよ」

12/26/2024, 3:30:55 PM