→短編・これは映画ではない。
〜行列の二人・5〜
恋愛映画を見た。一番印象に残ったのは、主人公の恋を応援する脇役。
その脇役は、最後まで主人公への恋心を隠していた。報われない恋の切なさや健気さに感情移入した。現実の恋愛では、主人公たちみたいなドラマが機能しないことも多いから、脇役にリアルを感じるのかもしれない。
映画のエンドクレジットが流れ終わり、客席から人が去ってゆく。映画の余韻を引きずったまま、私もスクリーンをあとにした。
ショッピングモールに併設されたシネコン。週末なので、家族連れや学生でにぎわっている。結構に騒がしい。さっさと離れて本屋でも行こう。
フードショップの前を通り過ぎたとき、セルフオーダーのタッチパネルでオーダーをしている2人の少年の姿が目に入った。
うぉい! ザ・行列(私命名)だ! 今から映画!? 2人で!? どんだけ仲がいいんだ!!!
「セルフオーダーって楽でいいよな」とツッコミくん。
「ちょっ! 今、話しかけんな! わかんなくなる! あーっ!!」とボケくん。
あぁ〜、タッチパネル苦手なのかなぁ〜、注文キャンセルしちゃってるわ……。微笑ましいなぁ〜。
えーっと、そうそう! 私、映画のパンフレットでも見ようかなぁ〜。ちょうど彼らの横にショップあるしぃ。コソコソ。
「なんでそうなるよ。注文してやるから欲しいやつ言えよ」
ツッコミくんってば、ため息一つで男前発言! うふふ、可愛いなぁ〜。マジでこの2人イイ感じなんじゃないのぉ??
「ダメだ! 俺がやる!」
ババァ〜ン! タッチパネルに立ちはだかるボケくん。まるで爆弾の起爆装置解除さながらの真剣なお声。なぜにこうもイチイチ大騒ぎなのか。さぁ、ツッコミくんどうする!?
しかし、先に口を開いたのはボケくんだった。
「次のデートの予行練習だから、俺がやらなきゃ! 唯奈にカッコいいところを見せるんだから!」
私の妄想を打ち破り、高々と宣言したボケくんはタッチパネルを操作し始めた。まぁ、そうだよな。妄想を働かせすぎたよな。しかし、この子のイケボならカウンター注文をサクッとこなしたほうが好感度が上がろうと言うものだろう……あっ!
私は思わずツッコミくんを凝視してしまった。空振りに終わった手をギュッと結び、タッチパネルに悪戦苦闘するボケくんの横顔を見るその瞳は、「デートの予行練習に付き合う友人」のソレだろうか?
手を伸ばせば届く距離にいる人の心には触れられない。もどかしさ、諦め、もっと暗い自己嫌悪、そんなものがツッコミくんの瞳に揺らいでいる。
「唯奈、そんなチョロくねぇし」
ツッコミくんの茶化す声、少し震えていないか?
「そ~だけどさぁ、努力を惜しんでもさぁ……」
これ以上、2人の会話に聞き耳を立てる勇気を失った私はパンフレットを買い、その場をあとにした。
パンフレットをパラパラめくる。映画で見た脇役の子が、ツッコミくんに似ているような気がしたが、単に気のせいだろう。
テーマ; ひそかな想い
〜行列の二人〜
・10/26 一人飯(テーマ; 友達)
・11/1 展覧会(テーマ; 理想郷)
・11/13 良い子も悪い子も〜……(テーマ; スリル)
・12/16 雪を待つ。(雪を待つ)
2/21/2025, 4:34:20 AM