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『それでいい。』書き途中。
犯罪行為の描写があります、ご注意を。

 


クラスで孤立していた男の子––––くん。
家庭環境が悪くて幼いながら手を汚していた子。


綺麗な容姿をしていたが無口で無愛想で
話しかけたって表情の一つも変えないものだったから
彼が教室で1人、窓の風景を眺めているのに気を留めるのは誰1人として居なかった。

彼と出会った日のことは…
というか彼との日々は余り記憶に残っていない。





––––––––––––––––––蝉が鳴いた。






始めて会話したのは下校中だっただろうか。


私とは反対の家の方向であろう––––くんが
黒い服を着て、同じぐらいの歳の少年を連れて道端にしゃがみこんでいた。

彼は私に気付かなかった、
私は何も思うことはなく彼をじっと見つめていた。

彼の視線を追うと目の前は歩きスマホをしているお兄さん。

知り合いなのかな、なんて思っていたら束の間、



いつの間にか––––くんたちは歩いているお兄さんに
並び、––––くんがお兄さんの尻ポケットへと手を。


そこには日光が反射し黒光りした革財布。いかにもな見た目で中身はずっしり重そうな財布。





私は走った。


ランドセルを投げ捨て、運動不足で慣れない感覚に張りそうになる足を、ただ、ひたすらに回して。


…駄目だ

彼の

指が

財布に





「––––くん!!!!!!」






ぴしゃり





空気が震えた。

はたり、とこちらを不可解そうに見やるお兄さん。


後ろを向いたお兄さんから素早く手を引っ込めて
目を開いて汗を滲ませて私を見つめる–––––くん。



静まった空間にお兄さんと共犯の少年は居らず

その場には大きく目を見開いたままの少年と
手首を掴み喉をつっかえてる私の2人ぼっちだった。






どくどくと鼓動が耳の後ろで鳴っている。
全身が熱くて、寒くて、上手く呼吸が出来ない。必死で走ったせいで足は今にも張り裂けそうだった。
何を言おう、どうしよう、捕まえたは良いものの
この後どうすれば良いなんてわからないに決まっている。警察?電話?学校?まず事情を聞くべき?


彼の顔を見つめたまま額を流れる汗は止まる事を知らない。気付かずどんどん彼の手首を強く掴んでいた。


あぁ、そういえば随分と落ち着いていたな。

数秒目を見開いて固まった彼だったが
少し経つと座った目をしていた。

当時の私には不思議で不気味でしかなかったが
あれはきっと捕まる覚悟をしていたんだろう。

全てを諦めた死んだ目をしていた。


–––––––––––––––––––赤い木の葉が落ちた。







「–––––くん」

あぁ、なんて馬鹿なことをしてしまったのだろう。

馬鹿だ馬鹿だとは思ってはいたが


『––––––、ちゃん』


……まぁ、もう今更か。





連絡先を交換した。








–––––––––––––––––––枯葉が朽ちた。





「––––という訳で、最近学校での無くし物が
 多発している。心当たりのある者は–––」


無くし物?




……あぁ、アイツか。

–––––くんと一緒に手を汚してた共犯な癖に
私にバレたとき一目散に逃げ出した卑怯者。



そういえば頑なに––––くんは
そのアイツの名前を教えてくれない。

ただ、ずっと「気に食わない」とだけ。



「売る?」って––––くんに目配せした。

彼は何も言わなかった。





–––––––––––––––––––雪が硬くなった。





「良かったの?売らなくて。」


私は1人でに言葉を続けてた。


「あーでも繋がっちゃうもんね、あいつ売ったら。
じゃあ言っちゃ駄目か。」

彼は何も答えない。
それから、そ、れから、は、なんて言ったっけ。




「大丈夫、言わないからね。」「––––くん。」「いつか私たちもバレちゃうのかな。」「少年院、だっけ?バレたら連れてかれちゃうんだって。」「何してるの?」「––––くん!!!!!!」「髪触るの好きだね。」「教室で話しかけちゃ駄目?」「頭いいよね、凄い。」「またやってきたの?なるべくやらないでって言ったじゃん」「他に友達つくろうよ、私だけなんて寂しいでしょ?」「––––くん!」「それ、どうやって隠すの?」「聞いて!あのね、これ秘密だよ?」「轢かれちゃうかと思った、気をつけてよ…!」「またね、絶対だよ!」「死にたいの?」「––––くん。」「ううん、大丈夫。」「何でも言ってね、何とかする」「––––くん!」「滑舌悪…。」「私、だって頑張ってるのに何でそんなこと言うの?」「それあげる!私はもうそれ使わないし!」「––––くん…」「嘘ついたの?ねぇ。」「戻ってきてね、絶対だよ、約束。」「––––くん。」「–––––くん!」「–––––くん!」「–––––くん…?」「–––––くん。」「–––––くん!」「–––––くん。」「–––––くん?」「–––––くん…。」「–––––くん!」「–––––くん!!!」「–––––くん?」「–––––くん…。」「–––––くん…?」「–––––くん!」「–––––くん。」「–––––くん。」「–––––くん…!」「–––––くん?」「–––––くん…。」「–––––くん。」「–––––くん⁈」「–––––くん」「–––––くん」「–––––くん」「–––––くん」「–––––くん」「–––––くん」「–––––くん」「–––––くん」「–––––くん」「–––––く







『頼りにしてる。』

一瞬歓喜に包まれた。嬉しくて嬉しくて堪らなくて飛び跳ねてしまいそうなぐらい。でもそれも一瞬で彼の罪と過去を思うと罪悪感に苛まれた。不安で不安で堪らなくていっそ海の底に沈んでしまいたいぐらい。




–––––––––––––––––––5時のチャイムが鳴った。





あぁ、いつの間にかこんな時間。

私はもう少女とは言えない歳になっていた。


『ねぇ、あきくん。』

『それで良いんだよね。』





白昼夢でも見て居たのだろうか。

…いや、夢だったらどれ程良かったか。

4/5/2026, 10:15:41 AM