未知亜

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乗車を促す声音に階段を駆け上がったけれど、
電車のドアは無情にも目の前で閉まってしまった。
がらんとしたホームのベンチに座って、
私はポーチからハンドクリームを取り出した。

金木犀の描かれた、
でもちっとも金木犀っぽくない変な香りのクリーム。
少量でもベタベタして、しばらくスマホも触れない。

一度だけあなたがくれた、
秋の終わりのプレゼント。

私からは比較的長く使えるものを選んで
プレゼントしていた気がする。

マグカップとかボールペンとか栞とか。
好きそうなデザインの小物をレジへ持って行くと
店員さんが「贈り物ですか?」と訊いてくれた。

その問いに頷くだけで、
飛び上がりたいほど幸せだった。
もっと何か違うものを本当はあげたかった。
あんなに早く離れるなんて思ってもいなかった。

クリームの放つ変な匂いに、私はひとり咳をした。

『あなたへの贈り物』

1/22/2025, 12:13:08 PM