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夢が醒める前に

気が付いた時には、視界が霞みがかった
みたいにぼやけて居た。

霧状の靄が僕の周りを覆っていた。

僕は視界の不安定さから逃れようと
叫びだそうとした。

しかし声は声にならず言葉は言葉にならず
僕は誰かの名前を叫ぼうとしたのに
思いだせない
この不安定な世界で僕はたった一人きり

ふとその時 音が聞こえた。
耳の中ではっきりと
僕は音の出所を探そうと霧がかった視界の
中 足を前に踏み出した。

懸命に懸命に前へ進んで するとしばらく
して ぽっかりと闇みたいな穴が空いて
居る所に出た。

僕はその穴を視界に捉え今まで順調だった
足並みを止めた。

何となくあの穴の中に入れば外に出られると頭の中で過った。


外? 此処は何処なの?
不安に駆られ今度は足を進ませる事を
躊躇した。

今度は逆に此処に居たいと外に出たくないという思考が過った。

穴の中に入りたくないだってあの中は....
僕の手足は震えて来ていた。

何故かは僕にも分からないのに不安が伝わって瞳からも訳も分からず涙が出た。
 
怖い 怖い 怖いよ....

僕は不安に押し潰されそうだった。

その時 僕の耳元で何かが囁いた。

(大丈夫だよ!)その声が何かは僕には
分からない

だけどその声は僕を励ます様に
(さぁ勇気を出して!)と僕の背中を押す
様に声を掛ける。

僕は足に力を振り絞って その声を導にして穴の中に力いっぱい飛び込んだ。


次に気が付いた時 僕は仰向けに地面に
横たわっていた。
瞳から涙の雫が頬を伝っていた。

横に伸ばした腕をふと上げてみると
手の平に赤い液体が付いていた
横を見ると地面に赤い絨毯を広げた
様に目を瞑って眠っているかの様な君の
姿があった。

嗚呼 嗚呼と僕は悟った。
あの声は君だったのだと 君は必死に僕を
引き上げ様と僕に呼びかけて手を伸ばして
くれて居たんだね.....

でも僕は....あの声が君だと分かって居たら
僕は現実に戻る事を躊躇しただろう

あの世界が夢だと分かっていたら
僕は夢から醒める前に君に駄々をこねて
君を困らせていただろう。

君は夢だと僕が気付かない内に僕の意識が
ぼやけている内に強引に僕を促し
背中を押した。

全く酷いよ君は.... 夢だと気付かせない
なんて..... せめて最期にさよならを
言う時間位くれたって良いのに....

「っ.....うっうっうわああああーん」

僕は泣いた仰向けになりながら血塗れの手で自分の目を覆いながら 力の限り
声が枯れるまで泣いた。

頭の中で君が笑いながら
「そんなに大きな声で泣けるなら
君はまだ生きられるね良かった」と安心する様に笑顔を見せる君の顔が浮かんだ。

何が良かっただ 君の居ない現実で僕に
生きろって言うのか 勝手だ 勝手だよ

夢から醒める前にさよならさえ言わせて
くれない君の事なんかを....

僕が嫌いになれない事も知っているくせに
.....。

3/21/2024, 6:05:32 AM