かばやきうなぎ

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脳裏


思い出す姿はいつも飄々として得体の知れない浮世雲みたいな後ろ姿ばっかりだったな。

ふとした時に名前を呼びそうになる。
その度に自分の中に色濃く残るその影を追いそうになる。そんな己の弱さが嫌だった。

嫌だったからあえてその後ろ姿を背負うことにした。
風にたなびくほど長いトレードマークの着物の丈を
短い羽織にしたのはそんな矛盾そのものを示すようで苦笑する。

フラフラしているようで誰よりも周りを見ていた。
諦めているようで誰よりも命を尊んでいた。
ふざけているようで常に大切なものが何かを捉えていた。
知っている。だって誰よりも近い位置でその背中に護られていたのだから。

三人と1匹で居られればなんでも良かった。
大切で大切で時が止まればいいと願う程に。
本当の本音はそれしかなくて。それ以外いらなくて。

世界とか未来とか難しい事なんて知らないと駄々をこねる姿だけはあの瞳に映したくなくて。
こんなのはただの意地だ。
ただただ、あの目に映る自分の姿に無様な己を見ることができなかった。だから笑った。意地でも心のうちなんて見せてやるかと笑ったんだ。

『行ってらっしゃい』

あの日、僕はちゃんと笑えていましたか。
ねぇ、銀さん。

11/10/2024, 6:03:56 AM