「なんか、最近さよならって言ってない気がする」
「何を急に」
「ねえ、さよならってどういう時に使う?」
「え、どっかで人と会って、帰るときとか、あとはお店から出るときとか?」
「なんかよそよそしくない?」
「ん?」
「なんかフレンドリーじゃないっていうか、普段そんな言わないよな」
「んー、言われてみれば」
「ビジネス、会社だったらさ、『失礼します…』じゃない?」
「あー確かに、会社でも得意先と商談したときでも『失礼します』って言うな。ホスト側は『ありがとうございました』だな」
「なんなら次の予定があったら『また!』とか『また今度』とかの方が気持ちいい」
「ああ次を想定してる感じはいいね」
「子どもの頃は毎日『さようなら』って言わされてたよな」
「帰りのホームルームな、あったな」
「みんなでいっせいに『さよーならっ!』て、あれ誰に向かって言ってたんだよな」
「儀式すぎたな」
「形骸化してるよな」
「あーでも。一個だけ気づいちゃった」
「なに?」
「完全に『さよなら』使ってるところあったわ」
「うそ〜、やめてよー、どこどこ?」
「サヨナラホームラン」
「わー! 言ってる! 毎回言ってる! あいつら子どものまんまだ。何も変わってない。野球小僧がそのまま大人になってるから。だからまだ『サヨナラホームラン』なんて言っちゃうんだ」
「大谷なんか野球少年のまんまだなんていつも言われてるもんね」
「それ変えよう。オレたちでそれ変えちゃおう」
「えー、サヨナラホームランを放ちました高橋選手です! 見事なサヨナラホームランでした!」
「あ、どうも。あのそのー、サヨナラじゃないんです」
「え? は?」
「サヨナラって約束なしのお別れなんで」
「急に山口百恵ですか?」
「せっかく来ていただいたお客さんにさよならするのは失礼なんで」
「では、なにホームランですか?」
「明日も来ていただきたいんで『また明日ホームラン』でお願いしまーす!」
「これでいいのかな」
「完璧でしょ」
12/4/2024, 12:43:45 AM