H₂O

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Love you


「愛してる」
軽く告げられた言葉につられて、そちらを向けば、普段と何ら変わらない彼がいた。眠そうにあくびをしながら、コーヒーをねだる彼はいそいそとこたつの中へと入っていった。
愛情なんて、そんな優しいものは入っていないことはわかっていたけれど、まだその言葉に期待してしまう。
ゆっくりとコーヒーを入れ、いつも通り砂糖を一つ、その黒の中へと落とす。愛も砂糖と同じように目に見えてから溶けてしまえばいいのに。
「カッート!」
そんな思考を巡らせていれば、監督からのその一言で思わず顔を上げる。演技に集中しなければ、そう思うのに視界の端にうつる元恋人の存在がそれを邪魔する。
ああ、あのとき聞いていた愛しているよりも何倍も薄っぺらくて、想いすらもこもっていないのに。その響きだけがあのときと全く同じだから。
まだ、その愛の言葉に期待している自分がいた。

2/23/2023, 1:51:21 PM