誰もいない和室の真ん中に糸電話が落ちている。紙コップに繋がれた糸は私がいる反対側の庭の廊下まで伸びているというのに、もう片方の紙コップはどこにも見当たらない。
私はそれを拾い上げ、耳に当てた。ほんの好奇心と暇潰し。
もしもし、と声をかけた先で息を呑む男の人がした。聞いたことのない声だったけれど、この家は普段から人の出入りが激しいから、その誰かなのだろう。
「この糸電話を作ったのはお兄さん?」
男は言い淀むばかりで返事らしい返事がない。
変なお兄さん。変なお兄さんの後ろで堪えきれないようにぷっ、と吹き出す女の人の声がした。その女の人の声はどこか懐かしい気がしたけれど、誰なのかが分からない。私が声の主を推測している間にも、紙コップの向こう側から男女のやり取りが漏れ聞こえている。何を言っているのかは分からないけれどそのやり取りは気安い。
「ねぇねぇ」
そこから始まった質問責めタイム。あれこれと根掘り葉掘り問いかける私と女の人に挟まれたお兄さんはワタワタと落ち着きなく、だけど、真摯に質問に答えてくれた。
ごはんよー、とお母さんの声が遠くからした。
「またな」
その一言を最後に、手のひらにあった糸電話は跡形もなくなってしまった。
□
「······と言うことがあったのよ」
昔話を披露していると、目の前にいる神様は首を傾げた。神様らしからぬ金髪碧眼の彼は日本の神というよりも異国の王子様のようだ。黙っていれば、という枕詞がつくけれど。
「でーきた」
私は紙コップに糸を通しただけの糸電話を完成させると、片方を庭へと放り投げた。
「何してんだ、アンタ」
「もうすぐ分かるよ」
私が彼に糸電話を渡す。
「耳に当ててみて」
「なんでそんなことを」
「いいから、いいから」
私の言葉に彼はしぶしぶ紙コップを片側の耳に当てた。
『もしもし?』
息を呑む彼は驚いたように私を見た。
「だから言ったでしょう?」
11/26/2025, 2:28:12 PM